IPCC Working Group1(WG1) Technical Support Unit(TSU)
スイス・ベルン大学訪問報告

IPCC WG1 国内支援事務局
近藤洋輝

1.はじめに

IPCCでは、その第28回総会(ハンガリー・プダペスト、2008年4月)において第5次評価報告書(AR5)の作成を決定した。次の第29回総会(スイス・ジュネーブ、2008年9月)では、選挙が行なわれ、パチャウリ氏の再選など、役員団(ビューロー)の全員の選挙が行われた。1作業部会(WG1)の先進国側の共同議長としては、スイス・ベルン大学のストッカー(Thomas Stocker)教授が選出された。そのため、WG1の技術(専門)支援室(TSU)は、ベルン大学に設置された。

JAMSTECでは、これまで文部科学省の委託により、地球環境フロンティア研究センターがIPCC WG1国内支援事務局を担当してきており、今後の活動を更に有効に進めるための情報収集と意見交換の目的で、事務局の近藤洋輝と林千絵、および、AR5作成に向けた情報発信のため事務局ホームページ更新に向けた調査業務を委託する(株)三菱総研の担当者(福田桂研究員)により、4月6日にベルン大学を訪問した。これは、第4次評価報告書(AR4)の作成に向けたWG1のTSUが、ソロモン共同議長の下に米国NOAAで立ち上がった際、同様の趣旨で訪問したことがその後の活動において極めて有意義で、また有益であったことから今回も企画したものである。

2.セミナーにおける発表

小職は、ストッカー教授からの招待により、セミナーでの講演を行なった。日本におけるAR5に向けた取り組み、特に革新プログラムに関して、その科学技術政策的な背景と、課題取り組みの現状についての講演であり、その演題は:

A national research initiative on climate change projection to address challenges from AR4: KAKUSHIN Program
であった。ストッカー教授の所属する物理学部の気候・環境物理学科学生・研究者・教官の30-40名の参加があった。

日本では、科学技術政策の4重点分野に環境分野を入れており、環境分野における推進戦略では、温暖化の予測が位置づけられている、さらに、文部科学省ファンドの下で、共生プロジェクトが地球シミュレーターの活用の下実施されAR4に先端的な寄与を果し、AR5に向けても同ファンドの下で、自然災害への影響評価も加えたより広い角度にわたる革新プログラムが、更新された地球シミュレーターの活用の下で実施されてきた点を示した。その上で、長期地球環境予測、近未来予測、及び極端現象予測などの課題と目標・スケジュールを示し、また、今後の展望として、NICAMの話や、次世代スーパーコンピュータの国家基幹技術のプロジェクトも進行中である点なども紹介した。

専門分野は多少異なるにもかかわらず、温暖化予測に対する関心の高さを感じると共に、革新プログラムに対するそれぞれの課題の狙いなどについての質疑応答がなされ終了した。

3.ストッカー共同議長、およびTSUメンバーとの懇談

懇談は、上記セミナーの前後に行なわれた。ここではまとめて報告する。

ストッカー共同議長とは、ジュネーブでの選挙の直後に小職と林スタッフは会見をしている。また、国際的なリクルートで就任した技術支援室(TSU)のメンバーの下記の3名に紹介された:

ミドグレイ室長(Pauline Midgley: Head TSU),

ティニョール業務担当補佐(Melinda Tignor: Deputy Head Administration)

プラットナー科学担当補佐(Gian-Kasper Plattner: Deputy Head Science)

小職は、ミドグレイ室長がこれまで、ドイツ政府代表団の一員としてIPCCや UNFCCC/SBSTAなどに参加した際、幾度もコンタクトグループなどで既知の間柄であり、またプラットナー補佐は、AR4に向けてのWG1/TSUのメンバーであって、1.で述べたように、当時のTSUを訪問して以来既知である。ストッカー共同議長も、AR4からのWG1/TSUの業務のスムーズな引継ぎや今後の業務活動に関して、頼りにしていると語っていた。

3.1 ハワイ・ワークショップのまとめと補足的なストッカー共同議長のコメント

ストッカー共同議長からは、AR4の関係専門家を招いて、行なわれた、「IPCC/WCRP/IGBP合同ワークショップ: IPCC AR5に関連した新しい科学の方向と活動」(ハワイ、2009年3月2−8日)(以下、ハワイ・ワークショップと略称する)における自らの総括リストを示して説明。それらの中で、TSUへのこちらからの質問などで入手した、最新の情報についてまず記すと:

最新情報1:

新シナリオに関し、数日前に、これまで決着していなかった、最も低い「代表的濃度パスウエイ(RCP)」はIMAG2.6シナリオ*を第30回総会に挙げることになったとの情報が入った。*注):放射強制力で3 W/m2近くまで急速に増加した後、2100年には2.6 W/m2まで減少するシナリオ。

最新情報2:

日程が10月か11月かも確定してなかった、第31回総会は、10月26-28日インドネシア・バリに決定。そこでスコーピング会合(7月、イタリア・ベニス)の結果に基づいてAR5の章立てが決定される。

ハワイ・ワークショップの全般的な総括とコメント

  • Same rigor and scientific accuracy
  • New ways of communicating results
  • Expert Meeting and Workshop during preparation
  • Fewer chapters, x-cuts within them:
    AR4では11章から構成されていたが、できれば10章ぐらいに減らし、各章の中で横断的事項についても触れたいと考えている。
  • More and shorter FAQs:
    FAQについては、前回の産業界や一般市民に加え、元IPCC議長のRobert Watsonからも「より多く」「簡潔な」FAQの作成を要望されている。ただし、FAQにおける表現は通常の報告書やSPMとは異なるため、負担軽減の観点からも、1章あたり1〜2件、最大30件程度(できれば20〜25件)のFAQを想定。

Emerging Topics in WGI Science

  • Observation; early obs. (18世紀頃までの代替えデータ<proxy data>)、 rate of change
    これらの更新は、第2作業部会における温暖化影響の観点からも重要
  • Cloud process and aerosols:
    これらは未だ不確実性の大きい分野であり、章を設ける程、研究成果が得られるか、あるいは時期尚早かは現時点では判断がつかないが、重要なテーマであることは事実である。なお、本テーマについて章を設けるのであれば、観測、モデル化、予測の全てをカバーした成果が出ている必要があろう。
  • Sea level rise, ice sheets & glacier:
    重要なテーマであり、専門家会合またはIPCCワークショップの開催を検討している。
  • C/N(注:CO2, N2O)cycle process and feedbacks:
    これらは相互に関係するものであり、TARではCarbon cycle について章が設けられていたが、AR4では十分取り上げられることができなかった。AR5では章を設ける必要性があると認識している。
  • Modes of variability obs/ model eval/ proj.:
    ENSO等の短期的変動については、AR4では研究成果が十分得られていなかったので、AR5においては詳細分析が可能なモデル開発による評価・予測を期待したい。
  • Model evaluation, intercomparison/ observation/ paleo-climate:
    特に古気候の評価が重要
  • Detection & Attribution; IPCC Expert Meeting WG1/WG2:
    局所的な現象における、環境の変化で気候変動を検知できるようになれば、一般市民への訴求力も高まる。 IPCCのWG㈵/WG㈼専門家会合の開催を提案する予定である。
  • Model projection; near/future, more “tests”:
    これまでの近未来予測、長期的予測に加え、学術的シナリオ(CO2濃度4〜6倍等の極端シナリオ)の分析により、仮に温暖化対策を全く採らなかった場合の影響についても示す必要があると思われる。

専門家会合及びIPCCワークショップ(WS)について

  • 4月21〜23日にトルコ・アンタルヤで開催される第30回IPCC会合において、WGI及びWGIIから2つの専門家会合開催について提案する予定である。
    *  一つは検出と原因特定(Detection and Attribution)に関する会合であり、2009年9月14〜16日にジュネーブにて開催することを計画している。
    二つ目は複数モデル間のアンサンブル(Multi-model ensemble)に関する会合であり、2010年1月頃の開催を想定している。
  • アンタルヤでは提案しないが、海面上昇や氷床、氷河についても専門家会合又はWSの開催が必要と認識している。なお、この分野については現在研究が精力的に進められているところであり、研究成果を待って2010年頃に開催できればいいと考えている。

極端現象に関するIPCC特別報告書の作成について

  • WGIの科学者の多くは、特別報告書の作成に対して消極的であると言える。作成するのであれば、AR5に対して十分早い時期でないとあまり意味がない。
  • 極端事象に関する特別報告書(“Extreme events and disasters: Managing the risks”)については、scoping meetingが3月23〜26日にオスロで開催されている。結果は各国のNational focal pointへ配布されており、次回のIPCC meetingで作成の是非について決定する手はずである。
  • 当初は適応(Adaptation)について記載されることが検討されていたが、その後リスク軽減(Risk reduction)に焦点が移っている。観測・予測の章も設けられる予定ではあるが、WGIIが主体の報告書であり、WGI及びWGIIIが一部貢献する、という形となる。
  • WGIのAR5作成スケジュールはWGII、WGIIIに対して1年以上前倒しとなっているため、特別報告書作成においてはWGIの科学者の負担が懸念される。
  • なぜこの時期に特別報告書を作成する必要があるか(AR5まで待てないのか)は、疑問に感ずるところもある。

その他のコメント

  • データの保存・取り扱い・分析(Data storage/ handling/ analysis)も重要な課題であり、PCMDIにおいても分散型データ保存システム(Distributed Data Storage System)について検討している。
  • 統合報告書(Synthesis report)の形式については、TARのようなQ&Aの形式がよいのか、AR4のような通常の報告書の形式がよいのかは判断しかねている。ただし、AR4でWGIが作成したFAQが好評であり、他のWGにおいても作成を推奨されているため、それらをとりまとめて統合報告書とすることも十分予想される。
  • WGIの報告書作成が2013年2月であるのに対し、WGII、WGIIIの報告書や統合報告書が公表されるのは2014年中頃*(*注:それぞれ、3月、4月、9月)であり、1年半近くのタイムラグがあるため、その間に新たに得られた知見についてどう取り扱うべきかは、今後大きな問題となることを懸念している。

今後のスケジュール(最新情報も含む)

  • 2009年4月21〜23日:第30回IPCC会合(於アンタルヤ)
  • 2009年7月13〜17日:AR5スコーピング会合(於ベニス)
  • 2009年8〜10月頃:スコーピングの政府レビュー
  • 2009年9月14〜16日:専門家会合(於ジュネーブ)
    検出と原因特定(Detection and Attribution)に関する専門家会合
  • 2009年10月26〜28日:第31回IPCC会合(於バリ)
    AR5の構成承認
  • 2010年1月頃:専門家会合(未定)
    複数モデル間のアンサンブル(Multi model ensemble)に関する専門家会合
  • 20010年9月:WGI Lead Author会合

所感

 今回の目的は情報の収集と発信という、相互交換であった。情報の収集では、ハワイ・ワークショップを経て、現在ストッカーWG1協同議長の見解を本音ベースで聞くことが出来たのは、いくつかの最新情報と共に有意義であった。

小職のプレゼンでは、内容的には、かなり関心を持ってもらい、革新の実施状況についての重要な発信になったものと思われる。ただ、持参したパソコンのソフトのVistaと先方のプロジェクターの相性がよくなくて、セミに先立って調整をしたものの、PPTで動画を作動する所で1箇所フリーズを起こし、同行した三菱総研の方のサポートで回復できた。せっかくの時間を有意義に使うため、ソフトには注意が必要である。

今回得られた情報や、相互人脈は今後の活動に大きく貢献するものと思われる。小職自身は、旧知の人々がWG1のTSUに参加していて一層親しみを感じることが出来た。

 

 

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