IPCC-WCRP-IGBP合同ワークショップ
参加報告

気象研究所気候研究部
鬼頭昭雄
独立行政法人海洋研究開発機構
野田 彰

平成21年3月3日〜6日にアメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市のハワイ大学東西センターで開催された「IPCC-WCRP-IGBP合同ワークショップ:最新の科学の方向性とIPCC第5次評価報告書に関連する活動」に出席した。ワークショップはIPRCがホストし、WCRP、IGBP、U.S. NSF、Climate Centralが共催した。Climate Centralとは気候変動とその解決策に関する明確で客観的な情報を提供する非営利団体で、2008年に設立されたそうである。本ワークショップはIPCCが冠されているが、科学会議であり、IPCC AR4以降の新しい学術的進展とIPCC AR5におけるWGIの占める役割を議論することが目的であった。これまでのIPCC WG1報告書の著者に招待状が送られ、約130名の出席があった。日本からは小職等と住明正東京大学教授、中島映至東京大学気候システム研究センター長の4人が参加した。

3日半の会議の期間に、半日ずつの7つのセッションがあり、それぞれのセッションはおおむね1つの招待講演、1枚のppt図を使った一人3分間のポスター概要紹介(全1時間)とポスターセッション(1.5時間〜2時間)で構成された。これは4年前に同所で行なわれたCMIP3マルチモデル相互比較解析ワークショップに倣ったものである。セッションテーマとしては「観測」「検出と特定」「物理・生物地球化学的フィードバック、強制力と気候感度」「雪氷圏、海面水位と水循環」「極端現象と地域的気候変化」「十年規模予測と気候変動度」「モデル評価とアンサンブル」の7つが設定され、ポスター数に応じて7つのセッションに再配分された。

各セッションに配置された招待講演では、

S. Solomon (NOAA;前WG1共同議長):AR4からAR5への教訓
T. Stocker (ベルン大学;WG1共同議長):IPCC AR5への第1作業部会の課題
M. MacFarland (デュポン社) 産業界のニーズ:いかにIPCCが役立つか
Sir J. Houghton (元WG1共同議長):IPCCと政策
R. Stouffer (GFDL/NOAA):AR5に向けての第5期結合モデル相互比較実験(CMIP5)
J. Gregory (ハドレーセンター):グリーンランドと南極の氷床不安定度の理解の進展
C. Field (スタンフォード・カーネギー研究所):WG1とWG2の協力
B. Hoskins (レディング大):数値天気予報から気候予測へ
がそれぞれ講演した。

全体のまとめとして、StockerはAR5での課題として、科学・統合・コミュニケーションを強調した。AR5における新たな学術的課題として、

  • 観測、古気候、気候変化の速度
  • 雲過程とエーロゾル
  • 海面水位上昇、氷床と氷河
  • 炭素/窒素循環過程とフィードバック
  • モデル評価:相互比較、観測、古気候
  • 変動モード:観測、モデル評価、予測
  • 気候変化の検出と特定:WG1とWG2共催の専門家会議
  • モデルによる予測:近未来/将来、RCP以外の実験

を挙げた(彼のまとめのスライドを添付する)。また共通モデルによるWG1とWG2の統合、我々科学者はIPCCの大使であり役割を明確にすることと不確実性とリスクに関するコミュニケーションが重要とした。

前述のように招待講演以外はポスター発表に潤沢な時間が割かれた。

鬼頭は「気象研/気象庁超高解像度モデルによる極端気象現象の将来変化予測」「気象研究所地球システムモデル」の2枚のポスターを発表した。前者では21世紀気候変動予測革新プログラムのチーム3極端現象の研究のあらましを紹介した。全球20km格子大気大循環モデルによる熱帯低気圧や大雨などの極端現象を中心とした将来気候変化予測、日本付近の雲解像領域気候モデルによる予測、予測の不確実性を定量化するための60km格子モデルによるアンサンブル実験、影響評価グループと共同で研究を行っていることを強調した。また後者では第5期結合モデル相互比較実験(CMIP5)に向けて気象研究所で開発中の気象研究所地球システムモデルの概要について紹介した。柔軟な仕様のカプラーにより大気海洋結合モデル、エーロゾルモデル、大気化学モデルをそれぞれ異なる水平・鉛直解像度で相互に結合できること、そのため大気モデルの解像度を120km相当でCMIP5実験を行なう予定であることを強調した。

野田は「革新プログラム:地球システムモデルを用いた長期地球環境変化予測」と「IPCCAR4以降の全球モデルを用いた熱帯低気圧研究の進展」の2枚のポスター発表を行った。前者では21世紀気候変動予測革新プログラムのチーム1長期予測の研究のあらましを紹介した。ここで用いられる地球システムモデル(ESM)は、樹木を個体ベースで表現する全球動的植生モデル(DGVM)の導入、対流圏・成層圏のフル化学モデルの導入、成層圏のQBOが自前で出せる等に特徴があることを強調した。また、ポスターに示した、安定化シナリオ計算における炭素循環・気候変化相互作用の気候感度実験の結果も関心を集めた。後者のポスターでは、AR4以降に行われた気象研全球20km格子大気大循環モデルによる地球温暖化実験の海面水温依存性の問題と、最近行われた全球雲システム解像モデル(NICAM)による温暖化実験の結果を示した。温暖化時に地球規模、半球規模で熱帯低気圧の発生数が減少することはほぼ確実であることを強調した。この点についてはポスター見学者には異論がなかったが、その理由について、合理的な根拠を示すことが、AR5における大きな課題である。

IGBPとの共催でもあり、炭素循環を始めとする生物地球化学過程の発表が多く、気候変動の観測および極端現象と地域的気候変化の発表がそれに続いた。また南極氷床がAR4で考えられていた事とは異なり、早い段階から海面水位上昇に寄与するのではないかとの最近の研究を踏まえて、海面水位上昇に関する話題に関心が持たれた。さらにマルチモデルアンサンブルの発表も数件有った。Barnett (SIO)とWigley (NCAR)はともに、マルチモデルアンサンブルを行なう際に各モデルのスキルを計算してメトリックを作り、それによりアンサンブル平均を行なっても、結局は各モデルの誤差が平均してならされることで結果に大きな違いは出ず、メトリックによる重み付けを行なうことは時間の無駄とまで言っていた。

なおAR5に向けてのCMIP5実験のスケジュールは非現実的に過密なものとなっている。CMIP5とIPCC WG1 AR5の今後の予定は、

2009年4月 CMIP5実験用排出量と大気中濃度シナリオの提供
2009年7月 AR5目次案を検討するスコーピング会合
2010年秋 CMIP5実験積分データが出ていないといけない
2011年5月 第2回LA会合。引用される論文が出ていないといけない?!
2011年12月 第3回LA会合。引用される論文は受理済み
2012年  第4回LA会合。
2013年初め WG1評価報告書発行

非常にタイトなスケジュールで実験を頑張る一方で、作業に流されることなく、科学的成果を上げることが必要である。

以上

添付

(Stockerのまとめ)
A view from the past to future
by Thomas Stocker (IPCC WGI co-chair)
at the Joint IPCC-WCRP-IGBP Workshop: New Science Directions and Activities Relevant to the IPCC AR5, 3-6 March 2009, Honolulu, USA

  • same rigor and scientific accuracy
  • new ways of communicating results
  • Expert Meeting and Workshop during preparation
  • fewer chapters, cross cuts within them
  • more and shorter FAQs

Emerging Topics in WGI Science

  • observation: early observation, rate of change
  • cloud process and aerosols
  • sea level rise, ice sheet and glacier
  • C/N cycle process and feedbacks
  • model evaluation: intercomparison / observation / paleo-climate
  • modes of variability: observation / model evaluation / projection
  • detection and attribution: IPCC Expert Meeting WG1/WG2
  • model projections: near/far, more "tests"

Take home messages from Hawaii

  • need more work and thought on how to extract robust information from models
  • need to ensure consistent Detection & Attribution framework
  • eating the bytes will be Herculean task: model data storage / handling / analysis
  • more work load than before
  • scientific community is ready for a new assessment

Schedule

  • July 13-17, 2009: Scoping Meeting AR5
  • Aug-Oct, 2009: Government review of Scope
  • Oct-Nov, 2009: IPCC Plenary to approve outline
  • nomination and selection of CLAs, LAs, REs
  • +/- Sep, 2010: WGI LA Meeting 1

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