気候変動に関する政府間パネル第29回総会(IPCC-XXIX)出席報告

IPCC WG1 国内支援事務局
近藤洋輝
会場となった”Centre International de Conferences de Geneve (CICG)”

1.はじめに

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の29回総会は、平成20年8月31日〜9月4日スイス・ジュネーブにおいて開催された。


今回予定されていた、主な審議課題は:

*IPCC設立20周年の記念式典
*第28回総会で決定された第5次評価報告書の作成に向け新体制(ビューローメンバー)を決める:
- IPCC議長の選挙
- IPCC副議長(3名)、各作業部会それぞれ共同議長2名、副議長6名、及びインベントリー・タスクフォース共同議長(2名)の計29人の選挙。
*ノーベル平和賞の賞金の活用について
*第5次評価報告書作成のスケジュールなど、IPCCの今後の活動について
*2009年〜2011年の予算について
*アウトリーチについて

日本からは、文部科学省、気象庁、環境省、経済産業省及び関連専門機関からなる政府代表団が参加した。第1作業部会関係では、文部科学省から地球・環境科学技術推進室の長谷英昭、気象庁から地球環境業務課の吉田隆、海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センターからは、小職が文部科学省参与として、また、IPCC WG1 国内支援事務局の林千絵がそれぞれ参加した。以下会議の概要を報告する。


日本政府代表団の様子

2.IPCC 20周年記念式典

8月31日には、ジュネーブ市Batiment des Forces Motricesにおいて、国連事務総長を迎えて、IPCC創立20周年記念の祝賀会が開かれた。

記念式典が行われたBatiment des Forces Motrices

2-1. 開会の演説

記念式典で挨拶をするパチャウリ議長(上)
バン国連事務総長(下)

パチャウリ(Rajendra Pachauri)議長は、 開会に当たり、2007年にはノーベル平和賞という表彰があったことに触れるとともに、20周年の歴史的な節目であることや、IPCCによってもたらされた知見の集積を指摘した。さらに、2007年のバリにおける気候変動枠組み条約(UNFCCC)の気候変動会議の審議において、 IPCC第4次評価報告書の内容が多数に渡っ て引用されており、IPCCが国際的な気候変動 政策の策定過程に対する貢献が示されたこ とを指摘した。このような、IPCCに対する高 い期待を踏まえて、気候変動の知見に対する需要の増大状況の中で、今後の活動を可能にするために、内部的な改造の必要性が考えられることを述べた。また、数年にわたりそれぞれの専門的技量で貢献してきた、数百や 数千の著者や査読者に対し感謝を述べた。

バン・キムン (Ban Ki-Moon、潘基文) 国連事務総長は、IPCCの創立20周年を祝賀し、IPCCの成果の重要性を強調し、また、その母体である、世界気象機関(WMO)および国連環境計画(UNEP)の支援に対して感謝した。また、2009年のコペンハーゲンの気候変動会議(COP15及びCMP5)では、 包括的な、実施可能な、また批准可能な合意を得る必要性 があることを強調した。環境に関するこの20年の交渉の 経験から学ぶ必要があるとともに、それにだけとらわれる必要もないと述べた。さらに、気候変動の交渉を、ジグソー・パズルになぞらえ、最終決着は、一度に少数の対応可能な部分を取り崩してとりかかり、それらが解明でき次第位置を確定させながら進めるしか達成し得ないと述べた。さらに、今年12月のポーランド・ポツナンの会議 (COP14、CMP4) では、交渉による具体的な成果が必要であり、議長国ポーランドがリーダーシップを発揮して、他の国々のリーダーに働きかけることを呼びかけた。

ロイエンベルゲル (Moritz Leuenberger) スイス環境・運輸・エネルギー・通信大臣は、開催国を代表して、パチャウリ議長に対し、気候変動に対する進んだ解明への献身に感謝した。人類に迫る危険に対する科学的警告とそれに対する政策決定者や一般の対応とのかなりの時間差を指摘した上で、IPCCが、気候問題の議論の中に冷静さを保つために、また必要なライフスタイルの変化に広範な規模で関与するための知見を普及させるために、その活動を継続する重要性を強調した。

ジャロー (Michel Jarraud) WMO事務局長は、WMOがIPCCの功績に誇りを感じると述べた。また、WMOが、人為起源の気候変動に対して関心を呼ぶような活動を行っていることを強調した。また、AR4の主要メッセージを出したことに対して、2007年末のバリでの合意に基盤としての役割を果たしたことに触れて、IPCCに祝意を表した。WMOは今後も引き続きIPCCを支持することを再確認し、IPCCが現在の構成を維持し、また気候変動による影響を最も受けると思われる途上国での専門的知識の開発や人材育成の支援に専念することを促した。

シュタイナー (Achim Steiner) UNEP事務局長は、国により現実は異なるが、世界を気候変動に関する交渉テーブルに着かせるかどうかは、知識の力やI PCCの活動過程の重要性にとって試金石である。知識と科学はまた、社会が将来いかに発展するかについて考え、行動する責務を生じさせることを指摘した。また、景気減速により気候変動に取り組む余裕があるかどうかについての疑問が生じていることを強調した。さらに、21世紀は、開発のあり方が再構築されることを述べた。最後に、科学と知識は、政治家、経済、国連及び特に一般人に対し力を与えるものであり、IPCCは世界の指導層に無視することのできない事実と数値をもたらしたと結んだ。

アコスタ (Roberto Acosta) UNFCCC代表は、気候変動影響、貧困、食糧供給の間のつながりに焦点を当てた演説を行った。世界の人々は、コペンハーゲンで合意が得られなければ、気候変動がいかに影響をもたらすかを理解する必要がある。また、IPCCはUNFCCCの交渉に影響を与えている点を指摘し、ガーナ・アクラでのバリ・ロードマップの交渉について報告し、コペンハーゲンでの合意文書の基礎がためを可能にする多数の提案を述べた。

クリスト(Renate Christ)IPCC事務局長は、IPCCがノーベル平和賞を受賞した直後に死去した元IPCC議長の故ボリン(Bert Bolin、スウェーデン)をはじめ、IPCCの業績に貢献したその他の故人に対し賛辞を示すことを提案し、全員で黙祷した。

2-2. パネル・ディスカッション:「IPCC報告書に反映された気候変動科学の発展」

上記のパネル・ディスカッションが、ベルグレイター (Ralph Begleiter)米国デラウェア大学教授をモデレータとし、これまでのIPCC評価報告書の作成活動にかかわった、以下のメンバーからなるパネラーにより討論が進められた([]内は担当した評価報告書):

  • ブルース(James Bruce、カナダ) :元WG㈽共同議長[SAR]
  • カンジアニ(Osvaldo Canziani、アルゼンチン)WG㈼共同議長[TAR、AR4]
  • デービドソン(Ogulade Davidson、シエラ・レオーネ)WG㈽共同議長[TAR、AR4]
  • ディン(Ding, Yihui、中国)前WG㈵共同議長[TAR]
  • ホートン(John Houghton、英国)元・前WG㈵共同議長[FAR、SAR、TAR]
  • イズラエル(Juri Izrael、ロシア)元WG2議長[FAR]
  • リー(Hoesung Lee、韓国)元WG㈽共同議長[SAR]
  • マッカーシー(James McCarthy、米国)前WG㈼共同議長[TAR]
  • メッツ(Bert Metz、オランダ)WG㈽共同議長[TAR、AR4]
  • パーリー(Martin Parry、英国)WG㈼共同議長[AR4]
  • クウィン(Qin, Dahe、中国)WG㈵共同議長[AR4]
  • ワトソン(Robert Watson、米国)前IPCC議長[TAR]、元WG㈼共同議長[SAR]

講演するワトソン氏(上)と
デイビットソン氏(下)

ベルグレイターは、IPCCの主要な成果は、一般の関心を気候変動問題に向けさせたことや、気候関連の科学の進展を推進したことにあると述べたうえで、まず各作業部会に関する成果についての総括コメントを依頼した。それらの要旨は次の通りである:

ホートンは、これまでの評価報告書を通して、WG㈵は気候変動に対する解明、原因特定及び予測に関し、顕著な進展を遂げたことを述べるとともに、そのAR4における主要な知見を強調した。 ワトソンは、WG㈼における、地域規模の解明や変動の観測に関する研究の進歩について強調した。

デイビッドソンは、緩和技術の必要性や、気候政策と持続可能な開発及び衡平性との相互関連の必要性など、WG㈽の主要な知見 を示した。 次に、数名が今後のIPCCの活動に関し見解を述べた。クウィンは、海面水位上昇にもっと大きな関心を持つべきであることや、活動に参加する途上国の研究者をもっと増加すべきであることを述べた。イズラエルは、WG㈵の役割を強調するとともに、温室効果ガスともに、他の気候要素も考慮する必要があることを指摘した。カンジアニは、将来の報告書では、適応問題に取り組むために もっとデータが必要である点を述べた。パーリーは、IPCCが、科学者と政策決定者の両方を含む枠組みであるという意味でユニークであることを強調した。ブルースは、衡平性や経済に関する解明における、めざましい進歩や進化を指摘した上で、適応による利便は、適応しない場合の利便をはるかに上回ることを強調した。

 

パネル・ディスカッションの様子
(スクリーン:クウィン氏とホートン氏)

続いてパネラーによる討論となったが、WG1に関わるものとしては、ホートンの次のようなコメントがあった:

  • IPCCは、報告書において、科学者が知りえたことを決して過大に示さないよう、控えめな表現をとる傾向になっており、これはIPCCの信頼性を示している一要因である。一般の人々は、評価報告書からの対応困難なメッセージに対して覚悟ができていることを強調し、政策決定者が一般の人々のこのような新たな感覚に基づいた政策を進めることを奨励した。

3.第5次評価報告書(AR5)に向けた新体制の選挙

第5次評価報告書(AR5)に向けた新体制の選挙は、IPCCの規程(14条)により以下の順序で行なわれた。既に前回の第25回総会で、その規模等はAR4のまま維持することが決まっている。

まず、IPCCビューローのメンバー(定員30名)に関しては、

選挙手順がスクリーンに映し出される

  • IPCC議長:領域については、以下の選挙での地域間バランスに関係せず独立に扱う。
  • 各作業部会(WG)の共同議長及びインベントリー・タスクフォース(TFI)の共同議長(原則各2名づつ):先進国側と、途上国及び経済移行国(旧ソ連圏)側からそれぞれ選出
  • IPCC副議長(3名)
  • 残りのIPCCビューローメンバー:現在の構成では、各作業部会の副議長(原則各6名づつ)。 規則では、原則として、この選挙が行なわれる同じ会合において、次にTFIのビューロー(TFB)の残りのメンバー(12人)の選挙を行なうことから、今回行なわれた。

3-1.地域ごとの分科会

選挙に先立って、下記地域(この分類はWMOによる。但し、ここでは首都の所在地のみで1つの国の地域が決まる方式。):

  • 第1地域:アフリカ
  • 第2地域:アジア(サウジアラビアなどのアラブ諸国を含む)
  • 第3地域:南米
  • 第4地域:中北米(カリブ海域を含む)
  • 第5地域:主に大洋州(フィリッピン、マレーシア、シンガポールなども含む)
  • 第6地域:ヨーロッパ、中近東の一部(レバノン、ヨルダン、イスラエルなど)

ごとに、関係国が協議する分科会に分かれた。地域ごとに、選挙管理委員会(Nomination Committee)の委員2名ずつ、及び、資格審査委員会(Credential Committee、候補者の資格など手続きに関して確認)の委員1名ずつ選定した。また、選出は地域バランスを原則とすることから、これら地域ごとの、なるべく候補に関して、地域ごとに調整を図るための議論もするため、選挙ごとに地域ごとに分かれて議論を重ねた。

第2地域では、中国と、サウジからNomination Committee委員、タイからCredential Committee委員を出すことになった。 IPCC副議長に対し、第2地域からは、韓国の新候補とスリランカの前副議長が立候補を譲らず、全体による投票に持ち込まれることになった。また、後半の選挙になるWGの副議長に関し、WG2では、イランとモルジブが、またWG3の副議長の候補者に関しては、サウジと総会になってから立候補を表明したタジキスタンが結局立候補を譲らず、全体の投票に持ち込まれた。

3-2.IPCC議長選挙

IPCC議長の候補者はパチャウリ前議長のみで、無投票で再選された。新議長は、今後もIPCCの活動を、不偏・透明なものとし、全員合意の精神のもとで、最高度の科学水準により実施していくことを誓った。

パチャウリ氏が再任された瞬間の模様

3-3.共同議長選挙

この選挙では、混乱が生じた。ここでは、やや詳細に及ぶが、事態を報告する。

WG1では、途上国・移行国側は中国のクイン前共同議長のみが立候補したのに対し、先進国側は、最初、スイス、フィンランド、ニュージーランド、カナダから4人が乱立状態となったが、ヨーロッパ地区での調整で、フィンランドが断念したため、3人の候補による投票となった。

WG2では、先進国からは、米国のみ、途上国・移行国側は、アルゼンチンに調整された。

WG3では、先進国は、ドイツのみであったが、途上国・移行国側からは、マリキューバに対する投票となった。

そこで、投票はWG1の先進国側と、WG3の途上国・移行国側の共同議長に対し投票することになった。投票用紙は、効率のため1枚の用紙で両方の選挙を同時に実施した。これが混乱を招くことになるとは誰も予期できなかった。

投票内容は、印刷されている候補者名(上部にはWG1の候補者名、下部にはWG3の候補者名)の中から自分の選ぶ候補者名の頭にチェック(あるいは)を入れるという、簡単明瞭な方式であったが、それにもかかわらず無効となる記入をした人があった。

第1回投票の結果がスクリーン上に表示された。投票総数は139で、そのうち1票は白票(無効)であった。もう1票は、上部のWG1に関しては、正常に記入した(従って「有効」と判断された)のに、下部のWG3に関しては無効な記入(従って、「無効」)があったため:

WG1では、「有効投票数」は:138、従って、「過半数」は:70

WG3では、「有効投票数」は:137、従って、「過半数」は:69
と表示された。いずれも、有効投票数が正しければ規定による計算上過半数はそのようになるはずである(過半数は、有効投票数の1/2より大きい直近の整数と規約にも定義されている)。問題は投票の用紙が1枚で、分離されてなかったことにある。

WG1については、スイス61、カナダ46、ニュージーランド31で、数字が大きく違い、上位2名の決選投票に持ち込まれるべきことは明らかであり、問題は生じなかった。

WG3については、なんと、キューバが69、マリが68票となった。上記の表示によれば、キューバが過半数に達しており、「当選」となる。ところが、マリなどアフリカの諸国から異論が出た。すなわち、有効投票数は、WG1では138となっており、問題の投票用紙は有効としていたのだから、WG3にとっても、同じ用紙なのだから、有効として数えれば、過半数は70で、どちらの候補者も達していないことになるから、再投票すべきだというのである。キューバは表示の通りで何の問題もなく当選であると譲らなかった。このような事態のために、法規担当専門家も控えていたが、結局問題は解釈の問題になり、結論は出なかった。パチャウリ議長は、多くの見解を聞いた上で、昼休みに入り関係者と協議する旨告げ、午後のセッションに結論が持ち越された。

WG1共同議長と一緒に
(左:トーマス氏、近藤事務局長、クウィン氏)

関係者であらゆる案を検討した結果として調整・合意されたとして、午後に議長が提案したのは、IPCCの今後の活動に禍根を残さず、協調の精神を大事にする立場からという説明で、WG3に関しては、共同議長・副議長の合計8名という枠は変えず、共同議長は3人(1名増)、副議長は5人(1名減)とする妥協案であった。この時点では、他に名案もなく、この提案が受け入れられた。規約の不備については、今後検討する必要があることや、この選挙での以下の投票では、投票用紙は1選挙、1枚で実施することとした。

WG1の決選投票では、スイス(Thomas Stocker)が当選した。

3-3.IPCC副議長選挙

全体のIPCC副議長(3名)の候補者については、当初3つの地域(第1、2、6地域)から各2名ずつ候補があったのを、第1地域(アフリカ)からは地域会合の調整の結果、シエラ・レオーネ(現WG3共同議長のOgunlade R. Davidson)にしぼられ、第6地域(ヨーロッパ)からは、調整結果で、ベルギー(新候補Jean-Pascal van Ypersele)に絞られた。ところが、第2地域(アジア)は、調整できず、2人の候補(韓国のHoesung Lee元WG3共同議長、及びスリランカの前IPCC副議長Mohan Munashinghe)が譲らなかったため、この2人に関る決選投票が全体で行われた。結果は、韓国70、スリランカ65で、大使も動員し活発な選挙運動を展開した韓国が選出された。

3-4.各WGの副議長選挙

投票の様子

地域的に調整が付かずに投票となったのは、アジア地域からと、大洋州地域からであった。前者に関しては、WG1イランが、WG2モルジブが選出され、WG3に立候補したサウジとタジキスタンは落選した。大洋州地区では、ニュージーランド(David Wratt)がWG1で、またオーストラリアがWG2で選出された。それ以外の地区では調整が出来、無投票で選出された。 結局、WG1の先進国側の副議長は、共同議長の候補であった、カナダ、ニュージーランドと、ヨーロッパ地区で調整のついたフランスが先進国から選出された。

3-5.選出された新IPCCビューロー体制

握手を交わす WG1共同議長

新体制は、列記すると以下のようになる(IPCCホームページにも示されている: http://www.ipcc.ch/about/ipcc-bureau-tfb.htm )。

議長 パチャウリ(Rajendra K. Pachauri、インド)
副議長(3): デービドソン(Ogulade Davidson、シエラ・レオーネ)、バン・イパーセル(Jean-Pascal van Ypersele、ベルギー)、リー(Hoesung Lee、韓国)
第1作業部会(WG1)
共同議長(2) ストッカー(Thomas Stocker、スイス)、クイン(Qin, Dahe、中国)
副議長(6):

モクシット(Abdalah Mokssit、モロッコ)、ラヒムザデー(Fetemeh Rahimzadeh、イラン)、ツヴィールズ(Francis Zwiers、カナダ)、タンガン(Fredolin T. Tangang、マレーシア)、ラット(David Wratt、ニュージーランド)、ジュゼル(Jean Jouzel、フランス)

第2作業部会(WG2)
共同議長(2) フィールド(Christopher Field、米国)、バロス(Vicente Barros、アルゼンチン)
副議長(6) ラホリジャオ(Nirivololona Raholijao、マダガスカル)、アブドラ(Ajmad Abdulla、モルジブ)、ブエンディア(Eduardo Calvo Buendia、ペルー)、スミス(Neville Smith、オーストラリア)、モレノ(Jose M. Moreno)、セメノフ(Serguei Semenov、ロシア)
第3作業部会(WG3)
共同議長(3): イーデンホーファ(Ottmar Edenhofer、ドイツ)、ピクス・マドルガ(Ramon Pichs-Madruga、キューバ)、ソコナ(Youba Sokona、マリ)
副議長(5): エルジズーリ(Ismail A. R. Elgizouli、スーダン)、リベイロ(Suzana Khan Ribeiro、ブラジル)、ボンチェバ(Antonina I. Boncheva、メキシコ)、カッラロ(Carlo Carraro、イタリア)、スキー(Jim Skea、英国)
インベントリー・タスクフォース(TFI)
共同議長(2): 平石尹彦(Taka Hiraishi、日本)、クルッグ(Thelma Krug、ブラジル)

4.ノーベル平和賞賞金の活用

前回の28回総会で結論が出ず、その後検討のためのタスクグループが形成された。タスクグループから、次のような提案があった。
■途上国とりわけ、後発途上国からの、気候分野の大学院またはポスドクの若手研究者の奨学基金を設立すること。基金は

− 途上国からの若手の気候研究者に機会を与える。
− 通常のIPCC活動とは切り離した性格をもつ。
− 追加の基金を呼びかけて受理する
− 運営のための間接経費を低く抑える。
− 長期に継承される基金とする。
− IPCCビューロー選挙の一部として選出される受託グループが管理する。

このような提案に対し、様々な見解が述べられた。

アルゼンチン、コロンビア、エクアドルなどは、ラテンアメリカの地域気候研究センターに与えることを要望した。

アルジェリア、エジプト、トーゴー、ナイジェリア、モロッコなどは、アフリカが気候変動の影響に、特に脆弱である点や、それに対応するような人材育成の地域的必要性を強調した。特にナイジェリアとモロッコは、アフリカにおける小さなプロジェクトへの支援に用いることを提示した。

オーストリア、ベルギー、トーゴーは、奨学生の選定に当たっては、地域的及び性別に関するバランスが重要であると述べた。

ニュージーランドは、IPCCが人材育成機関ではないことを指摘した。

ハンガリーとベルギーは、基金が、IPCCに直接結びつくような奨学制度に用いられ、IPCC初代議長のボリン(Bert Bolin)を記念するようなものであることが望ましいと述べた。

ケニアとモーリシャスは、活用の詳細についてはもう少し考慮する必要があると述べた。  このような討論をふまえ、総会は、タスクフォースの提案で示された奨学基金を設立し、その経緯を1年以内に評価することを決めた。

5.IPCCの今後の活動について

前回総会討論に基づき結成された、IPCCの将来活動に関するタスクグループの報告が、座長のヴァン・イパーセル(ベルギー)からなされた。今回までに2回の会合を開いた。これまでのビューローやTSUの活動の経験を十分活用したいと考えた。3つの軸に沿って将来活動を位置づけた:

今後の課題
 
1. 政策を規定せず、また厳密に科学立脚的であって、さらに政策により適切であるべき
2. 作成するものは、進化するユーザーのニーズに取り組む必要がある
3. 科学界とIPCC作成物のユーザーとの相互作用
4. 研究や観測における空白域に関連した、IPCCの役割
5. アウトリーチ
これらの課題に取り組むために必要な方策と手順における改善の可能性
 
6. AR4作成過程からの教訓
7. AR5に向けての道筋
8. 統合報告書の早期の考慮
9. 報告書の起草と査読の強化
10. 途上国科学者の参加の改善
11. 非英語の、あるいは中間的文献の統合化と、地域的観点への対応
12. 作業部会間の共同による、個々の作業部会の貢献の最善の統合
13. IPCCビューローの役割と責任
14. IPCC作成物として可能なもの
15. AR5完成後が適切かもしれないが、IPCCの構造上の改新の可能性など、IPCCの組織、手順、やり方に関する継続的な検討

会議の様子

AR5における重点主題
 
16. AR5をどういう内容で作成するかを検討する際に取り組むべき問題
17. 横断的問題の取り扱い方
18. 既存の提案や、利用可能な人的及び財政的な資源を考慮の下に、AR5作成期間中における、作成可能な特別報告書のトピックスとその重点化の与え方
19. 評価報告書や特別報告書以外の作成可能な報告書(例えば、技術報告書や、14で指摘した、可能性のある新たな作成物)のトピックス

これに対し、若干の質疑や見解表明がなされた。そのいくつかを挙げる:ボリビアは、アンデスやアマゾン地域における脆弱性の評価が、気候のリスクや人間の開発と同様に重要であると指摘した。ニュージーランドは、IPCCが、よりダイナミックな環境に対応する可能性がある点を強調した。アルゼンチンは、気候が経済を変えることを力説した。

6.IPCCの予算

総会は、2009〜2011年にわたる予算案に関し、財政諮問委員会の検討結果をそのまま受け入れた。

7.アウトリーチについて

事務局のクリスト(Renate Christ)から、アウトリーチに関する報告がなされた。AR4の成功や、ノーベル平和賞受賞により、事務局や、ビューローメンバー、TSUなどに、インタビュー、講演、出版物の使用許可に対するアウトリーチ活動に関し、非国連公用語への翻訳などと共に要請が一段と高まった。文書の配布に関しては、全ての地域を網羅するよう最善の努力を払っているが、なお地域によっては格差がある。教育や研修は、IPCCに課せられた任務ではないが、IPCC事務局は、そのような活動の仲立ちをしている。また、AR4を途上国に配布するに当たっては、欧州委員会(European Commission)が、IPCC、WMO、UNEPの合同プロジェクトに100万ユーロの献金をしたことに対し謝辞を述べた。また、クリストは、気候研究にたいする懐疑的批判論に対して、今後どうIPCCが対応すべきか考慮することを要請した。

8.その他

新排出シナリオについて

新シナリオに関する推進委員会の共同議長、モス(Richard Moss)から、その後の委員会の議論の進展が報告された。一番低い放射強制力のパスウェイについての検討がまだ進行中であることや、シナリオは、気候モデルに対してと同様に、影響評価、適応、脆弱性の研究界にも、2008年12月には渡すことが期待されると述べた。2007年オランダ・ノールドビエルハウトで開催された新シナリオに関する専門家会議の報告書は、国連公用語の全てに翻訳予定であることを述べた。

欧州共同体 (European Community )の特別のオブザーバー・ステイタス要請について

前回総会より引き続き、EC側から投票権、被選挙権はないが、発言権、反論権、提案および修正の発議権を有する「完全な参加」資格を求める提案がなされた。ヨーロッパ諸国は支持を表明したが、その他の多くの国から提案内容についての質問や、世界には同様な枠組みが存在するのに、ECを特別扱いすることへの懸念が表明された。日本も、ECを特別扱いすることの必要性が明らかでない点や、将来のリスボン条約*発効後における欧州連合(EU)移行時の取り扱い等について懸念を表明した(*注:「EU条約およびEC設立条約を修正する条約」: 2009年1月1日の発効を目指している。EUとECが一本化される)。

スロベニアと日本を共同議長とするコンタクトグループが設置されて討論された。多様な意見が出て、さらなる検討が必要として、次回総会に継続審議されることとなった

再生可能エネルギーに関する特別報告書について

“再生可能エネルギーに関する特別報告書”の第1回執筆者会合が2009年1月にブラジルで開催予定であると、ブラジルから報告があった。

極端現象のリスク管理に関する特別報告書の提案について

ノルウェーから、International Strategy for Disaster Reduction System との共同提案として上記特別報告書の作成提案が示された。途上国を含む世界中の政策決定者に重要な情報を与えるものとして、日本を含め多くの国に支持された。一方、IPCC将来活動全体及び予算なども考慮してその必要性を判断すべきなどの慎重論もあり、新ビューロー会合(本年11月)で検討することとなった。

UNFCCCからの検討要請について

UNFCCCから地球温暖化係数(GWP)等の人為起源の二酸化炭素排出量計算に関する尺度についての更なる技術的評価の要請があったことを受け、検討の進め方について審議が行われた。その結果、次回総会以前に専門家会合を開催する可能性を含め、新ビューロー会合にて今後の進め方を検討することとなった。

9.次期会合と閉会

トルコから、次期会合(IPCC-XXX)を2009年4月初めにイスタンブールで開催するという申し入れがあった。前期ビューローに対するねぎらいと、新ビューローへの歓迎の発言が続いたのち、パチャウリ議長が閉会を宣言した。

所感

冒頭に20周年記念式典があり、国連事務総長が招かれたが、考えてみれば、IPCCの会議に国連の事務局トップが現れること自体、バレンシアでの前々回総会と今回で2回目になるが、やはり異例のことである。IPCCの役割の重みを再度実感した次第である。

フォトグラファーによる環境活動の紹介(記念式典)

 

式典後のレセプションで挨拶をするパチャウリ議長

今回の任務は、新ビューローの選出であり、議長以下全ビューローメンバーが選出されて、AR5に向けた新たな活動が開始されることになった。各WGの活動は、先進国側の共同議長の国が提供する、財政的な面も含めTSU支援によって支えられている。米国が今度はWG2を支援する意向があり、ドイツは再生可能エネルギーの特別報告書作成提案の頃から、積極的にWG3の支援を志向していたと思われる。WG1では、従来の積極姿勢から支援が想定されていた英国が、国の方針ではなさそうだが、諸事情から、かなり間際に支援を断念したことから、当初先進国側の共同議長は候補者がスイス、フィンランド、ニュージーランド、カナダからの4人も乱立する異例の事態となった。議長に関しては、これまで、紛糾する事態もうまくさばき、また、先進国、途上国間のバランス感覚も優れているパチャウリ前議長が問題なく再選された。
個々の選挙では、想定外の事態が生じ、一時混乱したが、なんとか協調の精神の下、決着した。候補者多数の場合は、領域間バランスの観点から、事前に世界の6つの領域ごとに調整の努力をしたが、かなり投票に持ち込まれるケースが生じた。WG1も最たるもので、ヨーロッパ地区ではスイスに1本化したが、領域の異なる他の2名の候補者との間で投票により決着することになった。事前に候補者が、各領域の集会に、選挙演説をすることになったこともあり、プレゼンの際立つThomas Stocker (スイス)は一段と優勢になったが、それでも1回の投票では決着がつかず、決選投票となった。落選した、ニュージーランド、カナダの候補もそのあとのWG1の副議長選挙でフランスとともに先進国側の枠で選出された。彼らのWG1ビューロー内での活躍に期待したい。

今回、進行中の再生可能エネルギーの特別報告書に加えて、新たな特別報告書の提案が出ており、新ビューローの対応を待ちたい。そのほか、今後のIPCCの活動に関する議論も論点が提示されたところで、まだ議論を続ける必要がありそうである。

 

ページトップ / 1つ前にもどる / HOME