第14回TGICA会合参加報告

報告:江守正多
国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室長
海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 地球温暖化予測研究プログラム グループリーダー

1.TGICAについて

TGICA (Task Group on data and scenario support for Impact and Climate Analysis)は、1996年にその前身であるTGCIA(Task Group on scenarios for Climate and Impact Assessment)として設置され、IPCCの3つの作業部会を横断するデータ、シナリオ、解析方法等に関する検討と支援活動を行ってきた。代表的な活動としては、IPCC DDC(Data Distribution Centre)における、影響評価研究等に必要な気候変化シナリオや社会経済シナリオの配信、影響評価研究等の一般的な方法論をまとめたガイドライン文書の作成が挙げられる。また、第3次、第4次報告書(TAR、AR4)において、気候モデル実験に各国の機関が共通して用いるシナリオの選定にも影響を与えてきた。

TGCIAは、当初は比較的ボランタリーな組織として立ち上がったが、2004年にIPCCの執筆者選定に準じる過程によりメンバーの改選が行われた。名称もこの際にTGICAへと改称された。現在のメンバーは3つのWGから選出された20名程度の専門家から成り、米国WWFのRichard MossとブラジルCPTECのJose Marengoが共同議長を務める。日本からは、TGCIAに故森田恒幸氏(国立環境研究所)が参加しており、TGICAになってからは本職が参加している。TGICAとなって以降、2004年9月にオーストリアのLaxenburg、2005年4月にブラジルのSao Paolo、2006年2月に南アフリカのCapeTown、2006年10月に英国のExeter、2007年6月にフィジーのNadiで、それぞれ第9、10、11、12、13回(TGCIAから通算)の会合が持たれた。

2.TGICA第14回会合について

今回、本職は2008年2月26 - 28日にSt. Augustine(トリニダード・トバゴ)のUniversity of New Indiesにおいて開催された第14回TGICA会合に出席した。本会合には、各国から11名のメンバーが参加した。Richard Mossが所用により欠席したため、Tim Carterが代理の共同議長を務め、Jose Marengoと共に議事を進行した。
本会合の主要な議題は、
・ 第28回IPCC総会への報告について
・ 地域研究に関する専門家会合のまとめについて
・ DDCの運営について
・ ナイロビ行動計画への関与について
・ IPCC新シナリオについて
・ 次期気候モデル実験への変数のリクエストについて
・ ガイドライン文書の進捗について
・ キャパシティビルディングについて
・ 不確実性の取り扱いについて
・ 温暖化影響に関する観測データについて
・ TGICAのメンバーシップについて
・ 関連する状況の把握と今後の活動について
であった。

また、本会合と同時に、同じ場所で、全球空間データ基盤学会(Global Spatial Data Infrastructure Association: GSDI)の第10回大会が行われており、TGICAは28日の午前にこの大会の一部として合同セッションを開催した。

 

3.第28回IPCC総会への報告について

  • 2008年4月にブダペストで行われる第28回IPCC総会において、TGICAの活動報告を行う機会がある。この報告内容について相談した。
  • 2007年6月にフィジーで行われた、TGICA主催の地域研究に関する専門家会合(Integrating Analysis of Regional Climate Change and Response Options)の成果を中心として、活動報告を行うことになった。今後の活動方針などについても特にアピールすることがあれば盛り込むことにした。

4.地域研究に関する専門家会合のまとめについて

  • 専門家会合で発表された内容を学術誌Climate Researchの特別号として出版することになっており、その進め方について相談した。
  • 専門家会合の報告書のドラフトについて議論があった。結論部分がありきたりであるとの指摘があり、会合の内容をより適切に反映した魅力的な内容になるように修正を行うことになった。

5.DDCの運営について

  • DDCは、英国BADC(British Atmospheric Data Centre)、ドイツMax-Planck研究所のDKRZ(Deutches Klimarechenzentrum)、米国Columbia大学のCIESIN(Center for International Earth Science Information Network)の3者で運営されている。DDCの各運営機関から内容更新状況、アクセス状況、ユーザアンケート等の報告があり、議論を行った。
  • DDCの活動を、IPCCホームページなどを通じて、より積極的に宣伝することにした。特に、主に途上国を対象としたDVDによるデータ提供の存在がより分かりやすくなるように配慮することにした。
  • 気候モデルの日単位データについては、米国PCMDI(Program for Climate Model Diagnosis and Intercomparison)にリンクを張ることにした。そのほか、温室効果ガス排出インベントリ、温室効果ガス観測データ等もリンクを張ることにした。

6.ナイロビ行動計画への関与について

  • 国連気候変動枠組条約の下に設置された科学技術的助言に関する補助機関(SBSTA)において適応五カ年計画として議論されてきたものがナイロビ行動計画としてまとまり、SBSTAが適応に関する科学技術的知見の収集を行うことになった。このため、いくつかのテーマについて、文書の提出とワークショップのスケジュールが組まれている。TGICA-13会合で、TGICAは「社会経済シナリオ」などいくつかの関心のあるテーマについて、ワークショップへの参加などを通じて積極的に関与する方針を決めた。
  • 気候モデル・シナリオ・ダウンスケーリングに関するTGICAからの文書をBADCのMartin Juckesが担当して提出したことが報告された。(ちなみに、同じ機会に、日本の気候モデルグループからも文書提出を行っている)
  • 3月第一週にメキシコで観測データに関するワークショップが、3月第二週にトリニダードで社会経済データに関するワークショップが行われることになっている。これらについて、SBSTAからTGICAに事前の相談があるはずだったが、十分な相談が来ていない。メキシコの方はTGICAからの出席者が予定されておらず、IPCCからの他の出席者の発表にTGICAの内容を盛り込んでもらうよう頼むことにした。トリニダードの方はTGICAから米国JGCRIのHugh Pitcherが出席する予定である。
  • 6月にドイツのBonnでナイロビ行動計画の見直しを含めたSBSTAの会合があることになっているので、ここにはTGICAから数名の参加者を出すことにした。
  • 全体的に、SBSTAからIPCCないしはTGICAに十分な相談が無いことに対して懸念が示された。ナイロビ行動計画の分野設定やワークショッププログラムが非常に抽象的であることを見ても、十分な専門知識を持たない担当者によって運営されているのではないかという不安がある。現状で世界の専門家により行われている科学的活動がナイロビ行動計画に十分に反映されるように、今後、TGICAからも、より積極的に関与していく必要がありそうである。

7.IPCC新シナリオについて

  • 新シナリオについては、2007年9月にオランダのNoordwijkerhoutで専門家会合が行われ(専門家会合の運営委員会に日本からは国立環境研の西岡参与ならびに本職が参加した)、現在はその報告書を取りまとめている段階であるが、既にこの報告書の内容に沿った活動が各所で開始されており、新シナリオの開発プロセスは実質的に動き出している。今回の開発プロセスで特徴的なことの一つは、その主体がIPCCではなく、研究コミュニティーの自主的な活動をIPCCは促進(catalyze)するだけであることが強調されている点である。
  • 新シナリオ開発プロセスでは、RCP(Representative Concentration Pathway)とよばれる暫定的なシナリオに基づいて気候モデルの計算が早い段階で行われる。同時に開発される新しい社会経済シナリオの各々に対応する気候変化シナリオは、RCPに基づいて行われた気候モデル計算結果を「パターンスケーリング」して得ることになっている。このパターンスケーリングについて、英国Hadley CentreのJohn Mitchellからレビュー的な報告があった。他にパターンスケーリングについての研究をしている活動が無いかどうか、Mitchellと本職が次回のTGICA-15までに調べてくることになった。
  • 新シナリオ開発プロセスでは、新しい社会経済シナリオのデータベース(scenario library)を作成することになっている。また、影響評価研究についてもデータベースを作成することになるかもしれない。これらのデータベースの作成におけるTGICAの貢献、例えばDDCでそれを担当する可能性について、今後検討していくことにした。

8.次期気候モデル実験への変数のリクエストについて

  • 気候モデルの新しい相互比較実験に対して影響評価研究の観点からリクエストする変数について、本職が担当してとりまとめを行ってきた。前回のフィジーでのTGICA-13および専門家会合の議論を受けた案を作成し、専門家のレビューを行って改訂した最終案をWCRP CMACC (World Climate Research Programme group on Coupled Models and Anthropogenic Climate Change)の担当者に提出したことを本職が報告した。この作業についてはこれで完了となった。

9.ガイドライン文書の進捗について

  • 海面上昇シナリオについてのガイドライン文書のドラフトが完成したので、レビューを行うことになった。
  • 社会経済シナリオについてのガイドライン文書は、5月までに作成することになった。
  • 既存のガイドライン文書に更新の必要が無いかどうか確認することになった。

10.キャパシティビルディングについて

  • 気候予測データ等を用いた地域レベルの脆弱性評価を促進するためのキャパシティビルディングの進め方を具体的に検討するため、次回のTGICA-15を1日延ばし、キャパシティビルディングに関わる機関(START, APN, IAI, ENRICHなど)から代表者を招待して、会合を行うことになった。関係する機関とその代表者を調べて報告することになった。

11.不確実性の取り扱いについて

  • 地域スケールの気候変化予測における不確実性の取り扱いについて、John Mitchellから英国気候影響プログラム(UK Climate Impact Programme: UKCIP)の事例に基づく解説があった。この話題は地域レベルの脆弱性評価を推進するためのキャパシティビルディングの項目として重要であるため、できるだけ早い段階でガイドライン文書を用意したいという意見が出た。

12.温暖化影響に関する観測データについて

  • 観測された温暖化影響に関するガイドライン文書のドラフトができているので、このレビューを行うことになった。
  • DDCに観測された温暖化影響のデータベースを新たに作ることになった。AR4(WG2 Chap.1)でレビューされたデータをまず置き、それに加えて、ユーザーから報告される新しいデータも置くことができるようにして、AR5に向けたデータの蓄積を促進する。新しいデータについては何らかの基準を設定することになった。基本的には、論文や報告書(英語に限らない)になったものに限る。

13.TGICAのメンバーシップについて

  • 多忙等の理由で会合に全く出席できていないメンバーの改選が前回話題になったが、TGICAメンバーは評価報告書執筆者に準じる政府からの推薦等の手続きを経て決まる必要があるため、簡単には改選できない。そうこうするうちに、今年中にIPCC議長団(ビューロー)の改選が予定されており、IPCC全体が新体制に移行するため、TGICAもそれを受けて来年には自動的にメンバー全員の改選が行われることになる。
  • TGICAは、3つのWGを横断し、かつアセスメントサイクル(TAR、AR4といった報告書のサイクル)が切り替わっても継続的な活動を行うことに意義があるので、メンバーを全く入れ替えてしまうのではなく、ある程度の人数が再任することが望ましい。共同議長から、現在のメンバー各人に再任の意志があるかどうかを確認することになった。

14.関連する状況の把握と今後の活動について

  • 当面、関連する活動として最も重要なものはIPCC新シナリオ開発プロセスであろう。今回提案されているシナリオ開発プロセスの特徴の一つは、3つのWGの間で有機的に連携した作業を行うことである。TGICAは、3つのWGを横断するユニークなグループであるため、このプロセスに貢献する大きなポテンシャルを持っており、実際に貢献していくべきであろう。

15.GSDIとの合同セッション

  • 28日の午前に行われたGSDIとの合同セッションでは、Jose Marengo、John Mitchell、南アフリカのBruce Hewitson、フランスのBernerd Seguin、ならびにMartin Juckesの5名がTGICAの活動や気候変化問題に関わる様々なデータに関連した話題提供を行い、GSDI参加者との質疑応答を行った。GSDI参加者はリモートセンシング等の専門家が多いようであった。予測の不確実性、ダウンスケーリング、自然科学的データと社会科学的データとの融合などのいくつかの重要な点について、活発な議論が行われた。

16.次回会合

  • 次回会合(TGICA‐15)は2008年11月の3日の週もしくは17日の週に行われる予定となった。場所は、エジプトのAlexandriaが候補であるが、確定ではない。

17.所感

IPCCのAR4以降の活動については、AR5があるかどうか、あるとしてその時期といったことに関して現時点で正式には何も決まっていないが、一方で新シナリオプロセスは一部で活発に動き始めている。明らかにこの新シナリオプロセスが、次のAR5に向けた研究コミュニティーの活動の大きな軸の一つになることだろう。TGICAはこれに関与し、貢献していく方針であるが、その際に気になることが一つある。新シナリオの議論にあたっては、TGICAとは別のタスクグループTGNES(Task Group on New Emission Scenarios)が2005年12月ごろ立ち上げられ、新シナリオの開発方針を提案して2006年4月に解散した。これを受けて、今度は新シナリオ専門家会合の運営委員会が立ち上げられたが、これも現在作成している専門家会合の報告書を完成させた時点で解散するはずである。TGNESおよび新シナリオ専門家会合運営委員会の両方に本職も参加したが、本職を含めて、かなりのメンバーがTGICAと重なっていた。特に後者の共同議長の一人はTGICAと同じでRichard Mossであった。ここで、次に考えられることは、専門家会合運営委員会の解散後に、新シナリオプロセスの促進を実際に担当する新たなタスクグループが提案されるのではないかということである。これについては、TGICAの皆に聞いてみたが、まだ誰も分からないので、成り行きを見守るしかないということである。いずれにせよ、この新たなタスクグループがどう形成されるか(あるいはされないか)が、今後の新シナリオプロセスを大きく左右し、また、TGICAの新シナリオプロセスへの貢献にとっても大きな境界条件になることだろう。

 

 

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