気候変動に関する政府間パネル第27回総会(IPCC-XXVII)出席報告

           海洋研究開発機構
地球環境フロンティア研究センター
                近藤洋輝
会場となったバレンシア(スペイン)の“El Museo de Ciencias”

1.はじめに

気候変動に関する政府間パネル第27回総会(IPCC-XXVII)は、平成19年11月12〜17日、スペイン・バレンシアにおいて開催され、メンバー各国政府、国際機関、非政府機関、執筆チーム、および関連機関から、約450名が参加した。日本政府では、文部科学省、気象庁、環境省、経済産業省と、関連する研究・調査機関から計15名が参加した。地球環境フロンティア研究センターでは、IPCC WG1 国内支援事務局から小職と林事務推進スタッフが参加した。

今回の会議の主要な議題は:
    *IPCC第4次評価報告書(AR4)のうち、残された「統合報告書(SYR)」について、
      - 政策決定者向けの要約(SPM)の1行1行にわたる承認(Approval)を行うこと。
      - 本編(あるいは主文、Longer Report*)のパラグラフごとの採択(Adoption)を行うこと
      (*注:当初はLonger Partと称していたが案作成の過程でLonger Reportとなった)。
であり、実際ほとんどの時間をこれらに費やした。そのほか重要な議題として
    *継続審議になっている、IPCCの新シナリオに関する討論
    *今後のIPCCの活動(すなわち、AR5を作成するかどうか)についての討論
があるほか、進行中のその他の活動報告、2008-2010年の予算、次回の開催日時・場所などである。

2.開会

Opening Ceremony の様子

パチャウリ(Rajendra Pachauri)議長が開会を宣言した。

バレンシア市のバルベラ(Rita Barubera)市長が歓迎のあいさつを行い、IPCCのノーベル平和賞受賞を讃えるとともに、SYRの意義を指摘した。

UNEPを代表し、パズトル(Janos Paztor)がまず開催国スペインへの感謝を述べた。AR4の完成への期待を表明した。関わった科学者の努力を結集しているIPCCにたいして、結成母体として誇りを感じる点を述べ、今後の適応や持続可能な消費の重要性などを指摘した。

開会の挨拶をするパチャウリ議長

WMOを代表して、ヤン(Yan Hong)事務局次長が挨拶を述べた。今回の開催に関するスペインの開催に対し、また最近のWMOの水と気候などに関する国際会議の開催に対しても謝辞を述べた。各作業部会からのAR4への貢献を讃えるとともに、最も脆弱である、最貧国や小島嶼国の適応の重要性を指摘し、それに向けた、気象機関の能力強化や影響のより進んだ理解の必要性を述べた。

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のブア(Yvo de Boer)事務局長は、ベルリン・マンデートや京都議定書など、UNFCCCの主要な決定に対する根拠を提供する上でのIPCCの重要な役割を強調した。IPCCの気候変化に関するメッセージは明白であり、不作為は「犯罪的な無責任」であると述べた。

スペイン副大統領フェルナンデス・デ・ラ・ベガ(Maria Terresa Fernaqndez de la Vega)は、スペインが高経済成長の中で温室効果ガス削減を行っていることを述べた。温暖化対応策の努力は国境を越えた国際的行動の必要性などを指摘した。

バレンシア州政府知事のキャンプ・オルティズ(Francisce Camps Ortiz)は、IPCCの意義を指摘した。また、バレンシア州におけるエネルギー効率化、再生可能なエネルギー、水資源確保などの政策を述べた。

パチャウリ議長は、最後にノーベル平和賞受賞はIPCCのきわめて多くの構成員に贈られたものであることを強調した。SYRもAR4を構成するこれまでのものと同様に、高い質を維持し、全体がAR4として引用されるようにする必要があることを強調した。

Paztor氏(UNEP) Yan 事務局次長(WMO) Boer事務局長(UNFCCC) Vega氏(スペイン副大統領)

3.SPMの承認と結果

審議は、開会の議事終了後、最後の政府査読が反映された見え消しの文書が配布される直ちに開始された。トピックごとに、まず執筆チームの担当者が概略を説明したうえで、審議部分を会場の画面でも示しながら、実際には文ごとに審議が進んだ。審議は多くの点で各国の意見の合意が全体会議で得られず、個別にコンタクトグループで討論して全体会議に戻すという方式で進められたが、審議は長時間にわたり、初日(夜レセプションがあった)以外は、夜のセッションが連日続き木曜日にSPMを終了させるスケジュールを守るため、木曜の審議は徹夜で進められ、金曜日の午前7時にようやく終了した。

会合の様子

コンタクトグループでの討論の様子

初日のレセプションで挨拶をするパチャウリ議長
   

主要な内容は以下のとおりである(関係省庁による報道発表資料による)。:

主題1 気候変化とその影響に関する観測結果:
  • 気候システムの温暖化には疑う余地がなく、大気や海洋の全球平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることから今や明白である。
  • 地域的な気候変化により、多くの自然生態系が影響を受けている。
主題2 変化の原因:
  • 人間活動により、現在の温室効果ガス濃度は産業革命以前の水準を大きく超えている。
  • 20世紀半ば以降に観測された全球平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。
主題3 予測される気候変化とその影響
  • 現在の政策を継続した場合、世界の温室効果ガス排出量は今後二、三十年増加し続け、その結果、21 世紀には20 世紀に観測されたものより大規模な温暖化がもたらされると予測される。
  • 分野毎の影響やその発現時期、地域的に予想される影響、極端現象の変化に伴う分野毎の影響など、世界の気候システムに多くの変化が引き起こされることが具体的に予測される。
主題4 適応と緩和のオプション
  • 気候変化に対する脆弱性を低減させるには、現在より強力な適応策が必要とし、分野毎の具体的な適応策を例示。
  • 適切な緩和策の実施により、今後数十年にわたり、世界の温室効果ガス排出量の伸びを相殺、削減できる。
  • 緩和策を推進するための国際的枠組み確立における気候変動枠組条約及び京都議定書の役割将来的に向けた緩和努力の基礎を築いたと評価された。
主題5 長期的な展望
  • 気候変化を考える上で、第3次評価報告書で示された以下の五つの「懸念の理由」がますます強まっている。
    1 極地や山岳社会・生態系といった、特異で危機にさらされているシステムへのリスクの増加
    2 干ばつ、熱波、洪水など極端な気象現象のリスクの増加
    3 地域的・社会的な弱者に大きな影響と脆弱性が表れるという問題
    4 地球温暖化の便益は温度がより低い段階で頭打ちになり、地球温暖化の進行に伴い被害が増大し、地球温暖化のコストは時間とともに増加。
    5 海面水位上昇、氷床の減少加速など、大規模な変動のリスクの増加
  • 適応策と緩和策は、どちらか一方では不十分で、互いに補完しあうことで、気候変化のリスクをかなり低減することが可能。
  • 既存技術及び今後数十年で実用化される技術により温室効果ガス濃度の安定化は可能である。
    今後20〜30 年間の緩和努力と投資が鍵となる。

4.SPM審議の主要点

各国(会場)からのコメントに専門家が答える様子(松野太郎氏左から2番目)

審議では、本来予定していたよりもページ数が増加することに対する懸念が議長から再度指摘されたが、全体の合意を得るため補足をする場合が多くなった。詳細は省くが、論点や結論の主なものは以下のようになる:

  • 「人為起源」や、不確実性にかかわる表現について、本文テキスト、図の採用等をめぐり、サウジ、中国、インドから共通して異論を唱える場面が多くみられた(審議の長期化の主要原因)。
  • このような中で、将来の降水量予測から算定された、世界全体の河川流出量(run-off)の将来変化率分布の図の採否に関しては、スペインなどからは、地中海地方に関し、モデルがほぼ共通して将来のかなりの減少を予測しているなど、利用価値のある情報であるという指摘が多く出る一方で、サウジや中国は自国での状況と全く逆の結果であり、政策決定者に資する重要な情報ではないとする立場を譲らず、結局本編のみに止め、SPMでは載せないこととなった。
  • 逆に、会議前、国内連絡会で検討された、AR4での重大な新知見である海水の酸性化(現状及び将来予測)に関してSPMに載せるべきとする日本からの提案は、基本的には異議が全くなく、ただ議長が執筆チームとの検討で掲載場所として、トピック3が提示されて承認された。大きな成果といえる。
  • 観測された地域的な気候変化の影響のところでは、自然および人間の環境への影響に関し、自然環境への影響について削除すべきとする米国意見があり、また、それらの具体例を入れることの重要性をめぐって、米国、サウジ、エジプトの反対があったが、多くの国の意見を反映した議長の要請で、決着が図られた
日本政府代表団席(近藤事務局長、右から2番目)
  • 最後の政府査読を経て、政府からの要請により、会議に提案された原案では、本来存在していたトピック6「強固な知見と主要な不確実性」は、詳しく扱われている、本篇(Longer Report)のトピック6を参照するにとどまっていた原案も含めSPMからは全体を削除する案となった。オーストリアからは、逆に参照ではなく本編を簡略にしたものを載せるほうが、政策決定者などの読者に意義があるという見解で提案がなされたが、審議時間が既に大幅に延長していたことや、すでにSPMの承認された文が原案よりかなり長くなってしまったことなどから、結局うけいれられなかった。最後の位置であったことがやや不利に働いたきらいがある。ただし、本編では維持された。
  • 事前の国内連絡会の検討でも指摘された、将来気候変化と分野ごとの主要な影響を示す図では、気候変化に関しては、シナリオごとの21世紀末までの気温変化予測のみを対応させることとし、数世紀にわたる安定化カテゴリーの分類は対応させず、別途示すことになった。
  • 近年(1970-2004年)における、世界の、基本変化及び物理システム・生物システムの変化の分布図は、原案では情報が不十分であるという見解が多く出され、根拠となったデータの地域ごとの数の表も併記されることになった。
  • 原案ではいくつかのSRESシナリオに対する気温変化予測の図に全球的な将来の気温変化量の分布図が並べられたが、対応するSRESシナリオごとの排出量変化及び、SRES以後提示されたシナリオ(ポストSRESシナリオ)での排出量変化全体の幅を示す図を並べることになった。
Solomon WG1共同議長とコメントを交わす松野太郎氏 Core Writing Team Member席

5.本編(Longer Report)の採択

徹夜明けの金曜日朝10時から再開されたセッションで、本編の審議が始まった。これはパラごとの採択(Adoption)と言われているが、実際はページごとに審議が行われ、大部分はすでに承認されたSPMとの整合性に関する確認作業が主であった。例えば、SPMでトピック3で新たに導入した、海洋の酸性化に関しては、本編のトピック3でも追加が行われた。が、それでもところによっては、審議に時間がかかるところも出てきた。例えば、地域の影響では、雪氷の変化を極域に焦点を当てているが、亜熱帯・熱帯域の山岳でも同様の問題があるとの観点から補足を要求する意見が出るなど、各国が地域的な状況をより詳しく反映するべきとする意見が出るなど、しばしば審議が停滞した。原則としては、執筆チームの全体でのバランスや、科学的な観点などからの判断に基づいて議長が結論を提示してなんとかおさまった。また、後回しにした、1の「はじめに(Introduction)」では、地球システムと人間システムに関する様々な関わり合いを示した図に関して、日本からは、すでにSPMにも本編にも導入した、海洋の酸性化を図の中に入れるよう提案があったが、すると、すかさずいくつかの途上国からいろいろな影響結果も入れるべき(例えばサウジはスピル・オーバーを入れるべきとの意見)との見解が続出した。執筆チームのソロモン第1作業部会共同議長からは、この図では相互作用的な主要な流れを見ているので個々の影響結果については不適であるとの見解が出され、結局原案を維持することで決着した。

6.新シナリオについて

9月19-21日にオランダ・ノールドビエルハウトで開催された、IPCC専門家会議の結果が報告された:

  • 結論として提案される「ベンチマーク排出シナリオ」は、当面、地球システムモデル実験用である。これらのシナリオの筋道(Pathway)は、現存の研究論文から選定され、安定化、緩和、および基準シナリオの代表的範囲をカバーする。具体的には、高排出シナリオ、中間的2シナリオ、低排出安定化シナリオの4種類となる。
  • 統合された、新シナリオに向けては、関係分野の連携・組織・交流についての検討。
  • これらに関する会議の報告書は、会議の推進委員会により、学術文書として、査読過程を経て完成させるべく進展中であり、2008年3月に完成予定である。

7.次の総会など今後の活動

次回は2008年4月9-10日にハンガリー・ブタペストで開催する。それまでにIPCC議長が今後のIPCC(第5次評価報告書発行の是非など)について文書にまとめ、その総会で議論する。

次々回はIPCC20周年記念を兼ねた総会を9月にジュネーブで開催を予定している。そこで、次期の議長の選挙が行われることになる。

その次の総会(2009年)に関しても、トルコが、イスタンブールでの開催を招致している。

8.その他の審議事項

予算に関しては、財政諮問委員会の勧告が承認された。2008年の予算額は約535万スイスフラン(主要会議費:186万、執筆者会合など専門会議費:94万、出版費及び、人件費等事務局費:255万)。

ノーベル平和賞の賞金の使い方は次回第28回総会で検討することとなった。

その他の活動報告がなされた。詳細は省略する。すべての実質的審議は金曜深夜に終了した。

9.国連事務総長による終了演説

最終日の11月17日土曜日午前に、IPCC総会始まって以来初めて、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が参加し、終了に際して、演説を行った。それに先だって南米のアマゾン森林・チリ氷河や南極を視察したことに触れ、温暖化の「脅威は現実だ」と強調した。宝のような地球の様々な自然環境を守ることの重要性を指摘し、IPCCの重要な役割を強調した。国連事務総長がIPCCの会議に臨むのは初めてのことであり、温暖化問題が現在の重大な世界的課題になっていることを示している。

潘基文(パン・ギムン)国連事務総長の演説 パチャウリ議長より、最初の統合報告書SPMを手渡される
パン国連事務総長

握手をするパチャウリ議長とパン国連事務総長 左から2番目 Odingo IPCC副議長

所感:

IPCCがノーベル平和賞を受けるという、画期的な事態になって初めての総会であり、AR4が完成する会議でもあって、世界の注目度も大きな会議であった。実際、終了時に国連事務総長が現れ演説を行うということで、現在世界は環境問題、なかんずく地球温暖化問題が最重要課題の1つとしていることを参加者が実感した会議であった。

会議の内容では、第1作業部会の評価報告書SPMの審議の際に、きわめて顕著に科学者の下した評価に対する反論をしてまで、不確実性を強調した中国や、その際は目立たなかった産油国の代表ともいえるサウジや、細かな点に至るまで形式論に乗った形で、実際はサウジ、中国と多くの場合に共同で異論を唱えるインドなど、表面は科学的な理由のようでも、客観的には明らかにおかれた背景が大きく影響している事柄についての強い見解表明が目立った。

しかし、結論的には、パチャウリ議長の非常に粘り強くバランスのとれたリーダーシップと、それを強力に補佐する執筆チームの優れて進んだ科学的な観点からの冷静な情報提供が全員合意の結論になんとかたどり着くことができた会議であった。17日土曜日の11時頃の実質的審議終了時には全員拍手で終了できた。かくしてAR4はついに完成した。

審議が終了した様子 審議終了後、ホスト国のスペイン政府代表団より
AR4完成祝いのコメントがされた
 

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