主催:ケンブリッジ大学出版局
後援:独立行政法人海洋研究開発機構

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書出版記念講演会
- Climate Change 2007-
IPCC第4次評価報告書の意義と気候変動研究の今後
参加報告

2007年10月

1.全体

2007年1月から5月にかけて、IPCC第4次評価報告書は、第1作業部会(自然科学的根拠)、第2作業部会(影響・適応・脆弱性)、第3作業部会(気候変動の緩和)より順次公表されてきました。

今年9月に、第1作業部会報告書が書籍として出版されたことを受けて、ケンブリッジ大学出版局主催により、「-Climate Change 2007- IPCC第4次評価報告書の意義と気候変動研究の今後」と題された出版記念講演会が英国大使館にて開催されました。当日は、IPCC第4次評価報告書に関与した研究者、関係機関、関係省庁および出版メディア等約80名が集まり、報告書の執筆に実際に関われた日本の研究者の方々にその内容についてのご講演が行なわれました。WG1国内支援事務局である独立行政法人海洋研究開発機構は、本講演会の後援をいたしました。

2.記念講演会

【総合司会】
近藤 洋輝
IPCC WG1 国内支援事務局長 (独)海洋研究開発機構
地球環境フロンティア研究センター特任上席研究員

平野 圭子
ケンブリッジ大学出版局

 

総合司会をした近藤事務局長


オープニングではHatfull 英大使(写真)をはじめ、
4名の方々より祝辞が述べられた

  オープニング・祝辞
時岡 達志 氏
(独)海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター長

小佐野 愼悟 氏
気象庁 地球環境・海洋部長

Martin Hatfull氏
英国大使館 公使

Mark Gresham氏
United Publishers Services Limited社長

講演会
■出版の紹介        ケンブリッジ大学出版局

■第2章 (Changes in Atmospheric Constituents and in Radiative Forcing)
  
Review Editor:中島 映至  東京大学 気候システム研究センター長

【要旨】

第2章で述べられている人為起原温室効果ガスやエアロゾル等、気候変動要因が作り出す放射強制力の評価は、過去の報告書と同様、高い関心を呼んだ。2005年12月の執筆者会議でも全体で17,000件に及ぶ査読者意見のうちの16%がこの章に対して提出された。

今回は、人為起原エアロゾルの放射強制力のうちアルベド間接効果分が-0.7 W/m2という評価が得られたが、直接効果も含めて未だに大きな不確定性を伴っている。気候モデルによる放射強制力の評価は第7章でもされているが、章間で必ずしも統一した値が示されているわけではない。

今回は、ガス濃度の時間変化が詳細に示された。また、土地利用による地表面 反射率、太陽定数の影響評価は 第3次報告書よりも小さくなった。

講演資料はこちら(PDF:1.36MB)

■第7章 (Couplings Between Changes in the Climate System and Biogeochemistry)
  
Contributing Author:河宮 未知生
  (独)海洋研究開発機構
  地球環境フロンティア研究センター
  地球環境モデリング研究プログラム
  地球環境統合モデル開発グループリーダー


写真提供:(株)Cambridge University Press Japan

【要旨】

IPCC第4次報告書の内容のうち、生物地球化学的側面、とくに炭素循環に関わる側面について概観を行った。それまでの報告書に比べ目新しい結果としては、炭素循環フィードバックの指摘がまず挙げられる。これによって気温上昇の予測をさらに0.1-1.5度上方修正する必要があるかもしれない。将来のCO2排出削減計画にも影響があろう。

また海洋酸性化問題の指摘も注目を浴びている。海洋による人為起源CO2吸収により、翼足類など、アラゴナイトを形成する一部のプランクトンに早ければここ数十年で悪影響が出てくる可能性がある。南極海で最初に影響が表れると予想されている。またエアロゾル、オゾン等の気候に対する影響評価も前の報告書から定量化が進んだ。オゾンホール回復に対する気候変化の影響評価などにも日本からの貢献がある。

講演資料はこちら(PDF:1.08MB)

■第8章 (Climate Models and their Evaluation)
  Lead Author:住 明正
  東京大学 サステイナビリティ学連携研究機構
  地球持続戦略研究イニシアティブ 統括ディレクター・教授

【要旨】

地球シミュレータに代表されるようなコンピュータ能力の向上と共に気候モデルの信頼度が向上したのが、AR4の特徴である。具体的には、1.高分解能化、や2.物理過程の高度化が図られたことであろう。

特に、海洋コンポーネントの高分解能化により、表層海流についての再現性が増したことは評価できるであろう。また、多くのモデルで、フラックス調節を用いなくても、気候の再現能力が向上したことも注意する必要があろう。さらに、予測の不確実性についても、見当がつきはじめてきており、今後もこの分野への期待は高まることであろう。

講演資料はこちら(PDF:1.41MB)

■第10章 (Global Climate Projections)
  Lead Author:鬼頭 昭雄 気象庁 気象研究所 気候研究部 部長

【要旨】

IPCC WGI AR4第10章(全球気候予測)の以下のエッセンスを紹介するとともに、モデル予測に関する日本の貢献(共生プロジェクト、気象庁温暖化特研)にも触れた。

  • 気候モデルは2030年までは、社会シナリオによらず10年当たり0.2℃の昇温を予測。
  • 21世紀末の平均気温上昇は、社会シナリオに依存、またモデル間のばらつきも大きい。
  • 21世紀の温暖化予測の地理的分布は、ほとんどシナリオには依存せず、 昇温量は、陸域と北半球高緯度で最大、南極海と北大西洋の一部で最小。
  • 気温変化量の確率的表現も出来るようになってきた。
  • 降水量は、高緯度地域では増加する一方、ほとんどの亜熱帯陸域においては減少。
  • 積雪面積や極域の海氷は縮小。北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予測もある。
  • ほとんどの陸域における極端な高温や熱波、ほとんどの地域における大雨の頻度は引き続き増加。
  • 熱帯低気圧の強度は強まると予測

講演資料はこちら(PDF:3.06MB)

■第8章 SPM、SYR
  *WG1=第1作業部会、SPM (第1作業部会報告書政策決定者向け要約)、SYR (統合報告書)
  Review Editor; Member, SPM and SYR Core Writing Team:松野 太郎
  (独)海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター
  特任上席研究員

【要旨】

SPMの概要を各章執筆者の報告と重複しないように説明し、また個人的に興味を持った事柄や新たな問題点について簡単に触れた。

今回の報告のポイントの第一は、観測事実を広く詳しく調べた事で、その結果は「地球システムが温暖化している事は疑う余地はない」という文言で表現された。また、地球的な変化や極端現象の変化も調べられた。次に変化の原因が人間活動による温室効果ガス増加にあると推論されることを強く主張したのも重要なポイントである。

将来予測に関しては、前回同様2100年までの気候変化の多数のモデルによるシミュレーションの結果がまとめられた。今回は、大気モデルの高解像度化により地域的雨量変化や極端現象の変化についてもSPMの項目として取り上げられた。雨量変化では地中海周辺で特に夏季の雨量減少が目立っている。熱帯低気圧が強くなることも明確に記されたが、これは気象研究所の20kmメッシュモデルの結果なくしては不可能であった。

気になる問題の1つは、太陽活動の効果で最近の研究により産業化以前からの変化幅が前2回の値の1/3に修正された事で、20世紀前半の「自然変化」に影響するだろう。もう1つ最近の問題は、氷床融解が進むかもしれない事で、観測・モデリング両面の検討が求められている。

講演資料はこちら(PDF:3.45MB)

■Closing

3.まとめ

IPCC第4次評価報告書・第1作業部会報告書の特徴は、

1. 地球全体が温暖化していることに疑問の余地はない
2. その原因が人間活動によって引き起こされた可能性が90%以上である

と、科学的知見に基づき温暖化が進んでいることを明確に断定するとともに、その原因をはっきりと指摘しています。今後の地球温暖化の取り組みや国際交渉に大きな影響の与える報告書として、世界中でその重要性が益々訴えられることでしょう。

今回、SPM及びSYRの執筆に関与した松野太郎 WG1幹事会代表は、“温暖化は既に現実であるとの全世界の研究者の声に国際社会が動き始めた。これまで「警告」を役割としてきた地球温暖化研究は、これからは困難な二酸化炭素排出削減策や進行する気候変化に備えるため、科学的基礎を提供していかなくてはならない。”と述べられています。 (学術誌「科学vol.77より」)

4.その他

IPCC第4次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)
「Climate Change 2007 The Physical Science Basis」は、全国洋書取扱書店にお問い合わせ下さい。

(報告:海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 林 千絵)


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