気候変動に関する政府間パネル第26回総会(IPCC-XXVI)参加報告

地球環境フロンティア研究センター
近藤洋輝

1.はじめに

気候変動に関する政府間パネル第26回総会(IPCC-XXVI)は、平成19年5月4日、タイ・バンコックで開催された。

本会合のおもな任務は:
* 第4次評価報告書(AR4)に関する各作業部会の活動の受諾
IPCC第1作業部会、第2作業部会、第3作業部会がそれぞれ、第4次評価報告書(AR4)について担当部分に関して行った、政策決定者向けの要約(SPM)の承認と、本文の受諾という活動を総会として受諾すること。これは、一種の儀式である。これによって今後はこれら3作業部会の成果をもとに作成される統合報告書のみとなる。

* 排出シナリオに関する今後の作業

これは、25回総会の合意に基づき、議長は、

  • (1)少数のベンチマーク排出シナリオを特定するためのIPCC専門報告書(Technical Paper)作成(現IPCCビューロー任期中に)にむけた見通し文書を本総会のために用意することと、
  • (2)AR4の各WG担当分の完成後にできるだけ早く、新排出シナリオに関するIPCC会議を開くための推進委員会(Steering Committee)を設置すること
が求められている。これに対する議長の対応が示される。

* その他

IPCCの任務事項に関する検討、2008〜2010 年の活動・予算、国別温室効果ガスインベントリーに関するタスクフォースの今後の活動計画などが議題にあげられている。

2.開会およびWG3の残留議事完了

IPCCのパチャウリ議長により第26回総会が開会された。

主催国タイの環境大臣が歓迎のあいさつを述べた。各作業部会の成果をたたえた。

WMOを代表し、グッドリッチ(Goodrich) GCOS部長から、WMOの総会(Cg)のため出席できない事務局長に代わり、開催国タイへの感謝を述べたのち、この会議はAR4のすべての作業部会の担当分がそれぞれ決着したことを受けて開かれる画期的な機会である点を述べ、IPCCパチャウリ議長に対し、改めて謝意を表明した。

AR4の成果を強調するとともに、2006年の世界平均気温が観測史上6番目の高温であり、大気中の二酸化炭素濃度も記録を更新した点を指摘した。観測された温暖化の影響、識別可能な人為的影響、また熱波、豪雨や海面水位上昇などの予測結果にふれ、適応や緩和の対応政策の必要性を述べた。また、3作業部会に横断する問題に対する統合報告書への期待を述べた。最後に、IPCCのビューローメンバーや執筆関係者に謝意を表した。

次に、パチャウリ議長は、WG3の会議総会当日の午前4時まで及んだことを報告し、それでも最終部分が若干残っていて、この総会の最初の部分の時間をさいてそれに充てることを付け加えた。AR4が、第3次評価報告書から大きく進展したことを述べた。特に地域気候研究成果の重要性を強調した。アジアは急速に変化をしており、地域的な努力によって、影響・適応と同様に、緩和政策に焦点を当てる努力の必要性を述べた。

この後、WG3の残された議事として、バヌアツが第9章に対する留保見解があることを議事録に残すことを条件に、SPMの承認と、本文の受諾が行われた。

3.AR4に関する各作業部会の活動の報告と受諾

第1作業部会は、2007年1月29日〜2月1日にパリで第10回会合を開き、政策決定者向け要約(SPM)の承認と本文の受諾を行ったことが報告された。

第2作業部会は、2007年4月2日〜4月5日に、ベルギー・ブリュッセルで第8回会合を開き、SPMの承認と本文の受諾を行ったことが報告された。

また、第3作業部会は、当バンコクにおいて、2007年4月30日〜5月3日および、一部4日の総会の初頭において、第9回会合を開き、上記のように決着を見たところであり、これらを受けて、IPCC議長が、3作業部会のそれぞれのAR4完成に至るこれまでの活動に対して、総会として受諾することの是非を問い、異議なく満場一致で受諾された。

4.シナリオに関する今後の作業

IPCC議長から、提案説明された。その要点は、前総会(2006年4月)以来進展してきた、研究界での議論(特にアスペンの会議などの議論)を十分考慮して、1.(1)で目指している専門報告書作成の代わりに(実際そのための見通し文書< Scoping Paper >は提出されていない)、新たな方針案を提示したことである。

議長は、これまでに、1.の(2)に関しては、Richard Moss とIsmail A.R. Elgizouliを共同議長として、シナリオに関するIPCC専門家会議(Expert Meeting)開催の推進委員会を設置した。実際、それは、2007年9月19〜21日に、オランダのNoordwijkerhoutで「排出、気候変化、影響、対応政策の解析の新シナリオに向けて(Towards New Scenarios for Analysis of Emissions, Climate Change, Impacts, and Response Strategies)」として開催されることになっている。

さらに、議長は、上記の研究界での議論の進展に基づき、過去数カ月に気候モデル開発、影響・脆弱性、および排出/緩和の分野の主要な専門家との真剣な相談を行った。その結果、1.(1)で求められている専門報告書(Technical Paper)作成よりも、より迅速で、より低コストで、より柔軟な方法で、同じ目的、即ち、気候モデル開発(モデルによる予測)を排出シナリオ開発から切り離す(別に行う)ことを達成できることが確認された。気候モデル界では、かれらのAOGCM(大気・海洋結合大循環モデル)や地球システムモデルの実験を開始するためには、せいぜい2,3のベンチマーク濃度シナリオが必要になる。これらの濃度シナリオが生じるためには、社会経済的背景とともに、エアロゾルや、短寿命の温室効果ガスや、土地利用がどういう役割を果たすのかは適切に解明すればよい。要求されるベンチマーク濃度シナリオは、上記IPCC専門家会議で、比較的容易に特定することが可能であろう。そのための特別セッションは、専門家会議の議事に追加すべきである。そして、会議での、ベンチマーク濃度シナリオセッションに関する査読のある報告書は、2008年の初頭にモデル分野に利用可能にすることができるだろう。IPCCがこの提案を受け入れれば、上記専門家会議の推進委員会はその方向で対応することに合意している。IPCCビューロー会議でもこの提案は討論した。

そこで、IPCC議長の提案内容は:

  • ベンチマーク排出シナリオに関する専門報告書(Technical Paper)の作成という以前の方針を再考する(つまり止める)。
  • その代りに、本来IPCC新排出シナリオに関する検討を行う、IPCC専門家会議に付加する任務として、会議の推進委員会がベンチマーク濃度シナリオの策定を行うことを求める。
  • IPCC専門家会議の推進委員会は、その策定に関する会議報告案の専門査読をアレンジし、可能なら2008年初頭に終了させる。
  • 報告書には、IPCCの従来の慣行上、“Supporting Material(基盤的文書)”の地位を持たせるべきである。
というものであった。議長は、上記の提案趣旨を説明したうえで、その意義や利点についても説明した。

これに対し、多数の国からは種々のコメントが出されたが、いずれも基本的には議長の提案を支持する内容であった。主なコメントは以下のようなものであった:

  • 専門家会議には、WCRP、IGBPなどの代表を招くべきである。その後もそれら研究界との連携が重要である。
  • 報告書は、WCRP、IGBPとの共同発行も考慮すべきである。
  • 報告書の作成過程には透明性が重要である。
  • 専門家会議の参加専門家の構成には地域的バランスを考慮すべきだ。

議長は、コメントは十分考慮して進めてゆきたいという方針を表明し、提案は受け入れられた。

5.その他の議題と終了

IPCCの任務事項に関する検討、2008〜2010年の活動・予算、国別温室効果ガスインベントリーに関するタスクフォースの今後の活動計画に関しては、特段の異論もなく提案どおり承認された。総会は定刻どおりに終了した。

所感

今回の会議は、その前日終わるはずだったWG3の結果も含め、WG1、WG2の結果を受諾するのが主任務の1つであったが、WG3の会議が総会当日の午前4時までやって、主要な争点は解消したものの会議は終了せず、残りの部分は総会の中に持ち込まれる異例の事態となった。しかし、WG3としての会合は、両共同議長の努力もあり、無事に満場拍手のうちに終了した。1997年9月のモルジブで開かれた総会での各WGのビューロー選出のさい、WG3の共同議長(先進国側)に日本とオランダが立候補し、非公式の話し合いの結果、日本はIPCC全体の副議長1人となり、オランダが共同議長となって、ようやくその任務が達成されたことになる。日本は、インベントリー・タスクフォース(第4作業部会とする提案はまだ通っていない)の共同議長となって、こちらも存在感のある役割を果たしている。

今回のもう一つの主任務である、シナリオに関する課題は、想定されるAR5にむけ、気候変化予測を比較実験的に進める意味で遅滞がないよう、ベンチマークシナリオをどう決めるかという議論であったが、結局、IPCC新排出シナリオに関する一般的な議論をするために予定されている9月の専門家会議の任務に追加する形で、専門家会議の推進委員会により、少数のベンチマーク濃度シナリオの策定を議論し、それを出発点に2008年初頭までに査読を経て報告書を作成することになった。この背景には、モデル開発関係の研究界におけるこの1年ほどのこの問題に対する議論の進展がある。研究界における動きがIPCCに反映されるという、適切な形での決着になったといえる。

 

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