気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
第Ⅰ作業部会第10回会合(WGⅠ-X)出席報告

 
2007年3月
 
1. はじめに
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第Ⅰ作業部会第10会会合(WGⅠ-Ⅹ)は、平成19年1月29(月)~2月1日(木)の4日間、フランス・パリの国連教育科学文化機関(UNESCO)本部において開催された。出席者は107 カ国の代表、IPCC、世界気象機関(WMO)、国連環境計画(UNEP)等の国際機関から計306名が出席した。我が国からは、気象庁、環境省、経済産業省、海洋研究開発機構などから、計9名が出席した。IPCC関係の出席者、機関は:

 
会議場になったパリのUNESCO本部

IPCCビューロー:
    パチャウリ(Rajendra K. Pachauri) IPCC議長、
    ソロモン(Susan Solomon、米国)第一作業部会(WGⅠ)共同議長、
    クィン(Qin, Dahe、中国)WGⅠ共同議長、
    その他
IPCC/WGⅠのAR4責任執筆者(CLAs)
IPCC事務局、WGⅠ専門支援室(TSU)

 日本からは、政府から、気象庁 地球環境・海洋部地球環境業務課 里田地球温暖化対策調整官、同 総務部企画課国際室 田中国際第二係長、環境省地球環境局総務課 塚本研究調査室長、経済産業省環境政策課 西尾課長補佐など、(独)海洋研究開発機構/地球環境フロンティア研究センターからは、 近藤特任研究員および秋庭推進室スタッフが出席した

 今会合の主要な課題は、IPCC/WGⅠによる第4次評価報告書(AR4)の政策決定者向け要約(SPM)の承認(Approval)及び本文(専門要約<Technical Summary>及び本文各章<Underlying Report>)の受諾(Acceptance)であった。ほとんどの審議は、SPMの行ごとの(line by line)承認にコンタクトグループが形成された。
以下、議事報告である(手もとのメモに基づく。IISD <International Institute for Sustainable Development>: http://www.iisd.ca/ の資料も参考にした)。
  
2. 開会 (議題1)
 クィンWGⅠ共同議長により開会が告げられた後、開催国フランスのボードハッグ(Crhistian Bardhag)持続可能な開発対応の閣僚代表から、歓迎と期待の挨拶とともに、IPCCの意義を強調した。

 
挨拶をするPachauri IPCC議長

 開催を招致したUNESCOのベルナル(Patricio Bernal)事務局長補は、UNESCOがモニタリングや研究の重要課題を明らかにしようとしていることや、気候変化に対抗するためには、科学的及び社会的知見の教育が重要であることを述べた。
 WMOのレンゴーサ(Jeremiah Lengoasa)事務局長補は、評価報告書の内容を普及させる重要性を強調し、この会議を視覚化することにより、ネットワークで伝え、科学者と政策決定者の対話をする機会とすることを奨励した。
 UNEP代表のアルーサ(Alec Alusa)環境条約課長は、IPCCに、科学の立場を損なわないようにすること(Scientific integrity)や、透明で参加型の審議過程への関心を呼びかけた。また、IPCCから、気候変動枠組み条約(UNFCCC)における気候変動への長期的共同行動に関する対話への貢献を期待し、そのためには、多方面の国や分野のAR4執筆専門家の関与が必要であると述べた。
パチャウリPCC議長は、世界が気候変動に関する科学的知見を求めていることを強調した。この会議の成果が、AR4を形成する4つの要素の最初であることを指摘するとともに、WGⅠの評価報告書は第3次評価報告書に比べ、かなりの進展があることを力説した。
 ソロモンWGⅠ共同議長は、AR4の執筆者は、彼らの科学的掲載論文に基づいて選考されていることを述べた。その査読改訂過程では、専門家や政府から30,000のコメントがありすでに反映されていることを述べた。
 このほか、最終日の2月1日には、開催国フランスのオラン(Nelly Olin)環境・持続可能な開発大臣が演説した。IPCCの業績を称え、国際的な団結の重要性を強調すると共に、京都議定書の約束遵守のためのフランスが最近種々取り組んでいることを述べた。

 議題に関しては、提案通り合意された(別紙参照)。

3. 政策決定者向けの要約(SPM)案の説明とその承認(Approval) (議題1,2)
 研究者が学術文書として作成した、各章及び全体の専門要約などから成る本文案に基づいてまとめられたSPMの原案が、担当の各章の執筆者ら(CLAs、LAs)により、気候変化の駆動要因、近年の気候変化の観測結果、古気候的な観点、原因特定、将来予測の6つの主題ごとに説明が行なわれた上で、1行1行(line by line、実際は1語1語とも言える)にわたる推敲の討論を行なった。長時間にわたる討論により、かなりの修正、補足などを経て、最終日の深夜になって承認された。

 審議においては、個々の字句を改善するための討論のほかは、不確実性に関する修正意見に関わる討論がかなりの時間にわたった。詳細は省略するが、その代表例は、原因特定に関するものであり、第3次評価報告書で、「過去50年間に観測された温暖化の大部分は、温室効果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い(likely)」(TARでは、likelyは66~90%の確実性を意味)としていた評価から、観測やモデルの成果の進展により、一段と踏み込んで、同様の内容に関し、「人為起源の温室効果ガスの増加によって20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどがもたらされた可能性がかなり高い(very likely)」と評価(AR4では、very likelyは90~95%の確実性を意味)する案であったのに対し、観測やモデルにはまだ不確実性があり、かなり(very)とするのには同意できないという主張を繰り返した。中国以外の国からは次々に反論がでた。多くの発言は、「SPMをめぐる討論の目的は専門家が最新の知見の評価をまとめた本文の内容をいかに政策決定者に伝えるかを考慮することであり、専門家の評価を評価することではない」。「我々は、専門家の評価を信頼する」という主旨のものであったが、中国が譲らず、膠着状態になった。最終的には、「かなり可能性が高い」としてもなお残る5~10%の不確実性は、現在の観測やモデルによるものだという主旨の脚注(「残っている不確実性は、現在の方法論(methodology)に基づいて検討されたものだ」)を付け、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。」と原案の主旨が貫かれる形で決着した。

 最終案に比べ、海面水位の観測された上昇率とさまざまな要因による寄与の見積もりの表も追加された。さらに、各シナリオに対する、21世紀末の昇温予測に対する最良の予測(Best estimate)や可能性が高い予測幅(Likely range)及び、同じく海面水位上昇予測に対する予測幅の表も追加された。一方、審議の過程で提案されたのは、TARで示された、各シナリオに対する、21世紀末までの全球平均地上気温の変化に対応するグラフを本文(第10章図10.9の一部)から引き出して追加することになった。

 また、熱帯低気圧に関する観測の解析について、「1970年頃より以降、北太平洋と北大西洋の強い熱帯低気圧の強度が増してきた」の原案に対し、米国から、最近開かれたWMOの第6回熱帯低気圧に関する国際ワークショップ(IWTC-Ⅵ)での合意された声明ふまえ、強度に関する「全球的な」や「傾向」などの表現には慎重な検討が必要だという主旨の発言からコンタクトグループが形成された。そこでは、ハリケーンの強度増大傾向に対しては異論が出なかったが、日本から、気象庁の調査では太平洋の台風に関しては、強度に明確な変化傾向が見られないという発言があり、台風の強度増大の論拠となる論文が極めて限られていることもあり、結局、コンタクトグループとしては、「1970年頃以降、熱帯の海面水位の上昇と関連して、北大西洋の強い熱帯低気圧の強度が増してきたことを示す観測事実がある。この他、強い熱帯低気圧の活動度に増加傾向が示唆される地域がいくつかあるが、データの品質には大きな懸念がある。」という表現で合意され、全体会合で承認された。

 一方、内容的な面で案文が政策決定者にとって明確でないことからわが方から問題点を指摘し、変更(削除)された例としては、「1750年以降の人間活動が、世界平均すると、正味で+1.6[+0.6~+2.4]Wm-2の放射強制力に相当する温暖化の効果を持つとの結論の信頼性はかなり高い。」の直後の案文「この人間活動の影響は、太陽放射量の変化による影響の少なくとも5倍の大きさであった可能性が高い。」についてである。というのは、同じ時期の太陽放射量の変化のほうは、+0.12[+0.06~+0.30] Wm-2の放射強制力を引き起こしたと見積もられており、両者の比較は、最良の推定値(Best estimate)同士を比べれば10倍以上の開きがあり、「少なくとも5倍」が、SPM上では明確な説明無しに引用されていることを指摘したものであった。

 
会議風景

4.SPMの特徴とその主要な点
 今回承認されたSPMを、TARに比較した場合の主な特徴としては、以下のような点が挙げられる。
 第1に、現在までの観測事実の解析から、「気候システムの温暖化には疑う余地がない。」と明記、もはや温暖化は現実になっていることを確認している点である。TARでは、2000年までの100年間に世界平均の地上気温が0.6℃上昇したとしていたのに、AR4では、2005年までの100年間では0.74℃上昇したと指摘し、たった5年の間に上昇量が増えている。最近50年間では、10年当たり0.13℃(100年当たりでは1.3℃で、過去100年の2倍)であり、温暖化傾向は加速している。このほか、過去のより長期にわたる解析成果も示されている。
 第2に、温暖化の原因特定に関しては、3の審議で述べたように、TARからさらに確実度が高まり、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い(90~95%の確からしさ)」と踏み込んだ評価になった。
 第3に、重要な将来予測に関しては、TARに比べ予測モデルの数も質も進展し、1つの排出シナリオに対する予測値に関し、最良の見積もりを得ており、また可能性が高い範囲(予測幅)も出すことが可能になった点である。例えば、バランス重視のエネルギー源の高成長社会(A1B)では、2100年の最良の見積もりは、2.8℃の気温上昇である。さらに、大雨、熱波などの極端現象の増加傾向や、台風やハリケーンなどの強度が増大する予測も明記されている。

 承認されたSPMは以下の6つの主題(修正された上で承認されたものもある)ごとにまとめられている:
  気候変化の人為起源及び自然起源の駆動要因
  近年の気候変化に関する直接的な観測結果
  古典的な観点
  気候変化の理解と原因特定
  将来の気候変化に関する予測

 それらの主要な点は、平成19 年2 月2 日に関係省庁(文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省)により報道発表資料として下記ウエブササイトまとめられている:
 http://www.jma.go.jp/jma/press/0702/02b/ipcc_wg1.pdf
 念のため列記すると、
  • 気候システムに温暖化が起こっていると断定するとともに、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因とほぼ断定。(第3 次評価報告書の「可能性が高い」より踏み込んだ表現)
  • 20 世紀後半の北半球の平均気温は、過去1300 年間の内で最も高温で、最近12 年(1995~2006 年)のうち、1996 年を除く11 年の世界の地上気温は、1850 年以降で最も温暖な12 年の中に入る。
  • 過去100 年に、世界平均気温が長期的に0.74℃(1906~2005 年)上昇。最近50 年間の長期傾向は、過去100 年のほぼ2 倍。
  • 1980 年から1999 年までに比べ、21 世紀末(2090 年から2099 年)の平均気温上昇は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、約1.8℃(1.1℃~2.9℃)である一方、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では約4.0℃(2.4℃~6.4℃)と予測。(第3 次評価報告書ではシナリオを区別せず1.4~5.8℃)
  • 1980 年から1999 年までに比べ、21 世紀末(2090 年から2099 年)の平均海面水位上昇は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、18cm~38cm である一方、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では26cm~59cm と予測。(第3 次評価報告書(9~88cm)より不確実性減少)
  • 2030 年までは、社会シナリオによらず10 年当たり0.2℃の昇温を予測。(新見解)
  • 熱帯低気圧の強度は強まると予測。
  • 積雪面積や極域の海氷は縮小。北極海の晩夏における海氷が、21 世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予測もある。(新見解)
  • 大気中の二酸化炭素濃度上昇により、海洋の酸性化が進むと予測。(新見解)
  • 温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋への取り込みが減少するため、人為起源排出の大気中への残留分が増加する傾向がある。(新見解)


     
    会議風景:日本政府団席から、


    5.本文の受諾その他と閉会(議題4~6)
     本文(専門要約、及び各章は、SPMとの整合性やミスプリなどの編集上の技術的訂正を前提としてそのまま受諾(acceptance)となった。議事全体が終了したのは2日午前1時近くとなった。

     
    承認され拍手をする(左から)Manning WGI-TSU ディレクター、Solomon WG1共同議長、Qin WG1共同議長


    所感
     今回の議論では、従来のIPCCの会議で、常に信頼性に関する討議で疑問を呈していたサウジアラビアがなりを潜め、代わって、中国が修正を求める発言をする機会が多かったのが印象的である。ただ、最後は科学の立場に立った議論になることから、科学者の評価したことについての表現の問題になるはずであったが、中国の主張はその科学者の学術的な評価を評価する性質のもので、他のすべての全く国々から全く支持されなかった。改めてScientific Integrity を貫く重要性を実感した。

     審議が終了した夜が明けた2月2日の朝、IPCCによる記者会見が開かれたが、350名以上のメディア関係者が押しかけた。小職は第3次評価報告書作成以来今回まで、ほとんどの総会、WG1関連の会議に出席してきているが、このような大多数の大規模なメディアの関心を集めたことはない。やはり近年の極端現象や、パリを初めヨーロッパの暖冬傾向、京都議定書実施を来年に控えたタイミングなどもろもろのファクターが重なったためかと思われるが、世界的な関心が高くなっていることは明らかであり、今後他の作業部会の評価報告書、さらには統合報告書が発表されると一層関心が高まると思われる。

    以上

     
    会議終了後、Solomon WGI共同議長 を囲む日本政府団

    (報告:独)海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター)
    (写真出典:気象庁)

    (別紙)

    議題

      1. 開会
      2. WGⅠによる第四次評価報告書(AR4)「気候変化2007、自然科学的根拠」各章案の簡単な紹介
      3. WGⅠによるAR4の政策決定者向け要約(SPM)の承認
      4. WGⅠによるAR4のための科学・技術的な評価の本文の受諾
      5. その他
      6. 閉会


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