IPCC WG1 第4回LA会合参加報告
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第2章
報告:中島映至(RE・東京大学気候システム研究センターセンター長)
 2006年6月26日から28日まで、ノルウェーのベルゲン近くのOsoyroにある Solstrand Hotelにおいて、IPCC-AR4ワーキンググループIの第4回LA会議が開かれ、中島はチャプター2のREとして参加した。

以下の点が議論され、明らかになった。

第2版に対するレビューコメントは、第1版に比べて大幅に縮小し、主に技術的なものになっており、ほぼ、レポートの全容が固められたと考えられる。次回が最終のレビューになるがコメントはSPMのみに反映される。引用可能な論文としては7月25日までに投稿したものとなった。

レビューコメント等を反映して、2シグマの誤差範囲(5-95%信頼区間)を付け加えることになった。

大気の異常吸収(anomalous absorption)は、研究によってその原因がだいぶ明らかになってきており、説明できない吸収(unexplainable absorption)と言った表現が適切であると言う事になった。

エアロゾルの直接効果の評価は、観測とモデルのそれぞれのグループで系統的に違うことが明らかになってきており、これを指摘することになった。このような手法による大きな違いは、全天状態に限らず、一見より簡単と思われる晴天状態での誤差が縮まらないことがわかった。

日中の黄砂に関するADECプロジェクトに言及してほしい要求が日本からあり、検討される。第2章で使われる多くの研究がサハラ砂漠のものであるので、黄砂に関する研究に言及することが重要であると中島から指摘した。

今回のAR4で、AR3が使った第一次、第二次間接効果と言うエアロゾルの気候影響に関する表現がなくなったことに関する多くのコメントが出ていた。特に、cloud albedo効果と言う言い方はIPCCのコンテクストでは始めて出て来たので説明が必要であると言うコメントは真剣に受け止められた。第2次間接効果も第2章から記述が無くなり、7章でフィードバックとして与えられる。

Ice nucleationの記述は第2章から削除される可能性がある。

GPWの説明に関して、UNFCCC等の施策関係の活動との関係に関する記述を削除するべきであると言う指摘があった。

第7章ではメタンの収支の評価には未だに大きな不確定性があることがはっきりした。また、CO2の排出インベントリに関する政府公式値の誤差評価が不十分であることが指摘された。

IPCC Plenaryでは、SPMの作成が今回はよりしっかりと検討されており、5000語で施策に関連する事項を正確に伝えることを確認した。

今後の予定
    7月13日:改訂原稿をTSUへ提出
    9月 1日:CLAはレビューコメントへの対応をTSUへ提出
    9月15日:最終原稿のTSUへの提出
感想
 第2版は第1版に比べてレビューコメントを取り入れることにより非常に良くなっており、ほぼ今回でAR4の全容が固まったと思われる。しかし、エアロゾルの第2種間接効果がフィードバックに分類されることによって、第2章と第7章に分離されてしまったために、大気汚染の気候影響が非常に分かりづらい形にまとめられたのは残念である。第9章では、過去200年間の気候変動の様子とその原因についてTARよりもより克明に描かれている。この長い期間に海面高度や乾燥化の傾向は一方的に上昇していて、全球平均気温のトレンドとは一見異なる。この点を高校生にもわかりやすい言葉で説明することが大事であることを中島から指摘した。
 
第5章
報告:花輪公雄(LA/東北大学大学院理学研究科副研究科長・教授)
 IPCC第4次評価報告書第4回執筆者会合が,ノルウェーのベルゲン市郊外,ソルストランドホテルで,2006年6月26日(月)から28日(水)まで開催された.今年2月に提出された第2次ドラフト(SOD)に対する外部レビューアーと各国政府からのコメントが6月初めに締め切られたが,これらのコメントにどう応え,最終ドラフトをどのようにまとめるかを議論することが今回の会合の目的である.

 SODに対する外部レビューアーと各国政府から寄せられたコメントは,第5章関係で635であり,FODに対する約1,200から半減した.それでも最終版の作成に向けた会合ということで,上記3日間の議論では不足とのことから,第5章関係者は前日の25日(日)にも会合をもった.今回の第5章関係の会合には,インドのUnnikrishnan氏を除く,CLA2名,LA10名,RE2名の計14名が出席した.

 一連の会合では,各節ごとに,主だったコメントに対する対応をどのようにするのか,他の章との整合性をどのように取るのかの議論に多くの時間が費やされた.また,最終的にどの図をどのような形で掲載するのか,不要な,あるいは,新たに準備する図はないのかなどの議論も行った.なお,26日に開催された全体会議で,第5章のSODは,11ある章の中で,割り当てられた予定ページ数に一番近いドラフトであったとして表彰された.それでも,現在のドラフトは若干のオーバーであるので,長さの調整は,最終的にCLAの責任で行うこととなった.

 なお,今回の会合で「信頼限界」の統一した表現が,「95%」から「90%」に変更された.これは,ZODでは,各章でも,章の中ですらも不統一であったことから,前回の第3回会合で,各章とも,すなわちAR4全体を通して「95%」にしようというものであったが,今回の会合で異論が出て,「90%」を採用することになったものである.こうなった背景は残念ながら詳しくは紹介されていないが,若干「どたばた」している感は否めない.

 第5章関係の最終ドラフトに至る今後の主な日程は以下の通りである.
2006年7月14日(金):コメントに対する第1次回答案をCLAへ提出
2006年7月21日(金):TSとSPMへのコメントに対する第5章から回答
2006年7月28日(金):改訂稿をCLAへ提出
2006年8月 4日(金):第5章のコメントへの回答をTSUへ提出
2006年8月11日(金):改訂最終稿をCLAからLAとREへ配布
2006年9月15日(金):第5章最終稿をTSUへ提出

写真 IPCC WG1-AR4 第4回LA会合 第5章関係者
最前列左 野尻氏(LA) 最後列左 花輪氏(LA)
フィヨルドに面するソルストランドホテルにて
 
第8章
報告:住明正(LA/東京大学気候研究センター教授)
 2006年6月25日から28日にかけて、IPCC WG1の第4回LA会議が、美しいノルウェー、ベルゲン郊外のホテルで開かれた。トリエスタから始まり、ペキン、クライストチャーチと世界を回って、やっと最後に到着したというわけである。仕事は、第2次ドラフトに対するコメントに対応することであった。

 JSPS-ESF共催の研究会がストックホルム郊外で開催されたため、25,26日と欠席し、後半2日の参加となった。基本的に、IPCCの作業は、policy−relevantということのようで、研究発表ではないという点が強調された。したがって、第8章のモデルの発展のところでも、AR4に使われていないようなモデルの進展の記述は削除という羽目になった。研究の進展にとっては、将来の方向は大事なのであるが、それらは、WCRPなどの研究プロジェクトが担うということのようである。

 あとは、少数の個人が、膨大なコメントを送ってきていた。ほとんど、変質狂ともいえるような様子で、大体は、昔鳴らした研究者のようである。第8章に関して言うと、「結局、気候モデルは信用できない」というコメントに対し、「そこはかいいよ」というのに終始したように思われる。

 実際、われわれの振る舞いは、ダブルスタンダードという面もある。一方では、気候モデルによる推論を社会に応用してゆくべきであると主張し、他方では、気候モデルはまだまだだから開発のお金がいる、というわけだから。しかし、それが、現実を扱う気象学の宿命であろう。

 天気予報などは、何回となく、「あたらない」という誹謗中傷を受けながら、ここまで発展してきたことを考えると、これらの状況を切り開いてきた先達の努力と執念に、ただただ、敬服するばかりである。1個人で、1200もコメントを書くという執念もむべなるかな?である。

 会議の終了時に、スーザンが、ナンセンの話を引きながらスピーチをした。いつも、スーザンの話は、機知が効いていて洒落ている。なかなかと、才能があると感じさせるものであった。

 最後に、気候システム研究センターの寄与の総括を行おう。CCSRからは、第2章のReview Editorに、中嶋さんが、第8章のLAに筆者が参加した。そのほか、9章、10章に、K-1モデルの結果が多く採用されている。実際、地球シミュレータの登場により、世界に「高分解能モデル」でインパクトを与えたことは間違いはない。ただ、性能において他を凌駕できていないことが、残念であるが。後進に期待する次第である。
 
第10章
報告: 野田 彰 (LA/気象庁気象研究所気候研究部部長)
  鬼頭昭雄(LA/気象庁気象研究所気候研究部第一研究室室長)

1. 概要
 ノルウェー国ベルゲン市郊外のソルストランドホテルで開催された「IPCC第1作業部会第4次評価報告書第4回執筆者会合(IPCC Working Group I Fourth Assessment Report Fourth Lead Author Meeting)」(2006年6月25〜28日)に出席した。うち26〜28日が正式会合で、25日は各章が独自に集合する第0日目の扱いであった。第1回会合(2004年9月26〜29日、イタリア国トリエステ市)、第2回会合(2005年5月10〜12日、中華人民共和国北京市)、第3回会合(2005年12月13〜15日、ニュージーランド国クライストチャーチ市)と同様に、IPCCの次期第4次評価報告書(AR4)の執筆に関わるCLA(Coordinating Lead Author)、LA (Lead Author)、RE(Review Editor)、共同議長のS. Solomon と D. Qin及び技術支援部門のほぼ全員が出席した。日本からは執筆者として、気象研究所から野田と鬼頭(共に10章)、東京大学気候システム研究センター(CCSR)から住(8章)、東北大学から花輪(5章)、国立環境研究所から野尻(5章)及びREとして CCSRから中島(2章)、地球環境フロンティア研究センターから松野(10章)の計7人が参加した。国立極地研究所の藤井(4章)、東京大学の小池(4章)は欠席した。開会式にはノルウェー環境省副大臣、ベルゲン大学長、ビヤークネスセンター所長からの歓迎挨拶、また、最終日にはIPCCのPachauri議長から挨拶があった。会合では第2次ドラフトに対する政府および専門家レビューコメントへの対応と最終ドラフト執筆作業の方針を議論した。

2. 報告
 第10章では、CLAとLA全員の14人が出席した。またREであるAllen(英国)とPant(インド)が参加した。
 今回の会合での主な議論内容は以下の通りである。
1)第2次ドラフトに対するレビューコメントへの対応
  • 第2次ドラフトに対しては、第1次ドラフトよりは若干少なめのコメントが寄せられた。多くのポジティブなコメント、より明確な記述をする上で役立つコメントがあった一方、詳細で膨大な数のコメントを寄せた専門家がいた。多くの政府コメントはSPMとTSに回ったようで、各章への政府コメントの数は多くなかった。一方で同一内容の政府コメント・専門家コメントが見受けられた。SPMへのコメントは多く、1ページあたり約100のコメントがあった。
  • 第10章にはFODへのコメント数と同数である1331のコメントが寄せられた。あらかじめ決めた各LAの分担により、ほぼ2日間をレビューコメントへの対応とした。
2)第10章の最終ドラフトへの対応策の協議
  • 約10%の減量が必要
    テキストの減量だけでは限りがあるので、6枚の図を削除又はSupplementary materialに移すことにした。
    各モデルの年平均気温の時系列のスパゲッティダイアグラム(モデル名入り)は、モデルグループの貢献を目に見える形で示すために残す。
  • 本文で用いる図の再検討
    アセスメントの性格から、複雑な図は、容易に理解できる図に変更する。
    野田・鬼頭関連では、基本場のエルニーニョ的変化とエルニーニョ変動度変化のscatter diagram図を作成することになった。
  • mitigation scenario
    引用できる文献がないので入れないことをLA3で合意したが、強い政府コメントがきているので、図の修正で対応することとした。
  • その他
    凍土、大西洋熱塩循環、気候感度、確率分布、海面水位、不確実性について検討した。
    凍土は何百mもの深さまで存在するが、気候モデルではせいぜい10mの深さしか表現しておらず、凍土全体の変化をモデルは予測していない。Terminologyを注意。不確実性の範囲については、プラスマイナス1 sigmaでshadingしている図を5-95% uncertainty rangeに可能な限り統一する
  • Executive Summaryの再検討
    catch copyをどうするかを1時間半以上かけて検討
    In the absence of mitigation, it is very likely that continued anthropogenic GHG emissions will cause long term warming and other changes to many aspects of the climate system by the latter half of the 21st century that will be larger than those observed over the 20th century
3)最終ドラフト
  • 最終ドラフトのCLAからTSUへの提出締切は9月15日
  • 第10章SODへのコメントに対する回答は8月1日までにMeehlへ提出。疑義を呼びそうなものがどれかREに分かるように明示(フラッグ)
  • 第10章最終ドラフトは8月1日までに各LAの原稿をMeehlへ提出、8月24日にLAへフィードバックし、章全体の改訂作業を行う予定。改訂した図のTSU送付は8月4日まで。9月5日までにコメントをMeehlへ提出。References変更はStockerへ
  • 図のre-numbering: Retoから図番号update
  • 引用文献として2006年7月24日時点で受理された論文まで考慮の対象とする。

3. その他
1)Technical Summary (TS), Summary for Policy Makers (SPM)
LA4に引き続く6/29-30に会合が持たれレビューコメントへの対応が議論される。日本からは松野氏が出席

2)最終ドラフトは10月27日に政府に公開される。政府コメントはSPMに対してのみ行われ、12月8日が締め切り。

3)第4次評価報告書の採択を議論するWG1会合は2007年1月29日-2月1日にパリで開催される。

4)スコーピングを含めると2003年4月から始まった第4次評価報告書作成作業も、3年強を経てようやく終結に近付いてきた。Lead Authorに選ばれたことは名誉なことではあるが、個人の資格で行っている(行うべき)Lead Authorの仕事が、日本国内では、関連省庁で開催するIPCC国内連絡会などのように省庁の代表のように扱われる面がある。Lead Authorの活動をサポートするのは各国の責任であるが、Lead Authorは個人の責任において評価報告書作成作業を行っているのであり、そこのところは混同してはならないと感じた。これは、レビュー過程における政府レビューと専門家レビューの区別を明確にすべき(今回のレビューでもその区別がされていない国があった)こととも通じる。2007年は各作業部会の報告書や統合報告書が公表され、その後は第5次評価報告書ということになる。気候モデルの点からは、第5次評価報告書では各気候モデルの評価(点数付け)を(どのような形で行うかは未定であるが)行った上で、評価報告書に使われるモデルを選択(重み付け)することになるのではないかと考えられている。各機関の気候モデル開発においては、その性能を各種の気候モデル相互比較プロジェクトを通じて常に確認するとともに、何が各々のモデルでユニークなのかを発信していく必要がある。またLead Author自体も評価報告書毎に若返っており、日本として次世代・次次世代のLead Authorを出せるような若手の育て方が大切である。
写真 IPCC第一作業部会AR4第4回LA会合第10章関係者
左から: Collins, Knutti, Noda, Kitoh, Friedlingstein, Murphy, Allen (RE), Weaver, Gregory,
Raper, Pant (RE), Watterson, Meehl (CLA), Zhao, Stocker (CLA), Gaye
 

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