IPCC WG1 第3回LA会合参加報告
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第2章
報告:中島映至(RE・東京大学気候システム研究センターセンター長)
 2005年12月13日から15日まで、ニュージーランドのクリストチャーチCanterbury Universityにおいて、IPCC-AR4ワーキンググループIの第3回LA会議が開かれ、中島はチャプター2のREとして参加した。REがLA会議に招聘されるのは今回が始めての機会になる。約200名の関係者を集まっていた。前日の12日には、チャプター2のLA会議が開かれ、これにも参加した。

1.全体関連で気づいた点
  • 今回の専門家レビューで寄せられたコメント数はTARの約3倍で、40ヶ国の547人のレビューアーから17200コメントが寄せられた。
  • 今後のスケジュールは次のとおり:
     2月3日までにレビューコメントに関する回答をTSUにサブミットする。
     3月3日までに第2次原稿(SOD)をTSUにサブミットする。
2.会議を通してチャプター2会議では、専門家レビューコメントをいちいち確認し、その対応を議論した。要点は以下の通りである。
  • チャプター2ではチャプター間では最も多く2,800のコメントを受け取った。コメントの内容から、これらは原稿の問題点が多いと言うよりも、非常に多くの関心がチャプター2に寄せられたことに起因していることが分かる。特に放射強制力の概念が広く浸透していることを物語っている。
  • チャプター2の重要な役割として、的確で分かり易い放射強制力の図表を提供することに神経が注がれていた。
  • このような状況を反映して、放射強制力の定義の図が現状では対応できなくなっているので、より正確な定義を表現するように図を改訂することになった。
  • 放射強制力の図表であるが、今回からは地表面のフォーシングも示されることになる。これは、エアロゾルの地表面での直接効果が、降水量の変化を引き起こすことが指摘され始めたためである。
  • 第一原稿の段階では、人為起源物質の組成、放射強制、エミッション記述に関してチャプター2,3,7との大きなオーバーラップがあるので、今後第2次原稿の作成に向けて調整することになった。オゾンとOHの記述もチャプター間で重複が多い。
  • エアロゾルの間接効果については、第1間接効果は放射強制力として定義しチャプター2で,第2間接効果は相互作用と捉えてチャプター3で取り扱うことになった。このような分離が起こると、エアロゾルの影響の全容がポリシーメーカー等に伝わりにくくなることを、私を始め何人の委員が強く指摘したが、残念ながら結論として上のように分離して取り扱うことになった。
  • 第4次報告書でもエアロゾルの気候影響評価について、モデルと観測の間に大きな差がいまだにあることが明かになった。特に、土壌起源エアロゾルの効果の評価には非常に大きなばらつきがある。
  • 人工水蒸気の強制力が追加されることになった。
  • 共生プロジェクトや日本発のエアロゾルやオゾンの気候影響に関する成果が多く引用されていたが、不十分な所もあるので、第2次原稿段階でさらにレビューをしっかりして行く必要がある。
第4章
報告:小池俊雄(RE・東京大学大学院工学系研究科教授)
 2005年12月13〜15日に,クライストチャーチのカンタベリー大学にて,IPCC第4次評価報告書の第1ワーキンググループの執筆者(LA)・レビュー編集者(RE)会合が開催された.会議の主要な目的は,2005年8月に提出された第1次ドラフト(FOD)に対する外部レビュー結果への対応である.会合は,主に全体会議,各章別会議,CLA会議から構成されており,CLA会議で協議,全体会合で方向性の検討,各章別会議で細部の検討,全体会議で報告というようなサイクルで行われた.また,今回初めて召集されたREに対するガイダンス会議も開催された.

 第4章の執筆チームは,執筆者主幹(CLA)の世界気候研究計画(WCRP)の合同科学会議(JSC)の議長を務めるAlfred-Wegener研究所のP.Lemke教授および中国科学院寒冷乾燥地域環境工学研究所のJ.Ren教授と,9名のLAからなる.今回はRen教授とLAである国立局地研究所所長の藤井理行教授が所用で欠席であった.第4章のREは2名で,米国雪氷データセンター(NSIDC)所長のR.Berry教授と筆者が参加した.FODに寄せられたコメントは1132でべらぼうに多いわけでないが,割り当てページ数に対するコメント数は恐らく第1ワーキングループの中ではトップクラスであろう.雪氷圏はこれまで独立した章で扱われてこなかったこともあり,関心の高さが伺える.第4章会議では,CLAによる現状報告の後,REがFODおよびレビュー結果に対するコメントを述べたあと,Executive Summary, Introduction, Synthesisに対するレビューコメントへの対応の議論と,Executive Summaryの内容の詰めが行われた.また章間のクロスカッティングな問題として,雪氷の融解が海面上昇にどのような影響をもたらすかについて,第5章との議論を経て,対象期間を1993-2003年と1961-2003年の二つを共通期間とすること,また過去5年間とその前の5年間とを比べて,その間に雪氷融解が進んでいうことが指摘された.また,第4章では凍土の融解についても定量的な数値が示され,意欲的な内容となっている.

 今回は,筆者にとってはじめてのIPCCプロセスへの参加であった.P.Lemke教授の一つ一つ雪氷圏の各コンポーネントの新たな知見を確認しながらサマリーをまとめていく第4章執筆者会議,第1ワークグループ共同議長のS.Solomon教授による全体の方向性を示しながらも参加者の知見を巧みに引き出すというウィットに富んだ議事運営の全体会議を通して,IPCCプロセスの重要性を痛感した.科学コミュニティが得られた新しい科学的知見を分かり易く整理して示すという作業は,もちろん政策決定者との共同作業の上で不可欠であるが,実はその作業が科学コミュニティにとっても次の知の創造に向けた重要なステップであることを認識できたのは大きい.これは多くの学問分野に共通であるとは思われるが,環境科学,とりわけ複雑系としての気候システムの包括的な理解には欠かせない作業である.なお,筆者自身は出張先の中国から続けてクライストチャーチに向かったということもあり,事前準備が十分でなく,その不備を今回はご欠席であったLAの藤井教授に助けていただいた.記して謝意を表す.
第5章
報告:花輪 公雄(LA・東北大学大学院理学研究科教授)
  IPCC第4次評価報告書第3回執筆者会合が,ニュージーランドのクライストチャーチ市,カンタベリー大学で,2005年12月13日(火)から15日(木)まで開催された.今年8月に提出された第1次ドラフト(FOD)に対する外部レビューアーのコメントが11月初めに締め切られたが,これらのコメントにどう応えるかが今回の会合の目的である.

 40か国547人の研究者から寄せられたコメントは,全体で17,200にも及ぶものであった.第5章には約1,200のコメントがあり,上記の3日間の議論では足りないとのことから,第5章関係者は前日の12日(月)にも会合をもった.今回の会合には,日本の野尻氏とイタリアのArtale氏を除く,CLA2名,LA9名,RE2名の計13名が出席した.
一連の会合では,主だったコメントに対する対応をどのようにするのか,他の章との整合性(cross chapter issue)をどのように取るのかの議論に多くの時間が費やされた.cross chapter issueに関しては,Cluster A(観測の章における整合性),Cluster B(炭素循環の整合性),Cluster C(極端現象の表の作成)の3つが設けられ,関連する章の執筆者間で検討された.その他,多数の小さなグループでの意見交換の場が,コーヒーブレークや昼食などの機会を利用して設けられた.

 今回の会合の議論を経て,第2次ドラフト(SOD)が3月にまとめられる予定である.このSODは4月7日から6月2日までの8週間,再度研究者と政府のレビューアーに公開され,コメントをもらうこととなっている.
第5章関係のSOD作成に至る今後の日程は以下の通りである.
    2005年12月30日(金):コメントに対する回答案の作成
    2006年 1月13日(金):図の作成と用語集原稿の完成
    2006年 1月20日(金):表の作成
    2006年 1月27日(金):修正した原稿の提出
    2006年 2月10日(金):統合した原稿の配布と要約の提出
    2006年 3月 3日(金):第2次ドラフトの提出
第8章
報告:花輪 公雄(LA・東北大学大学院理学研究科教授)
 今回は、Lead AutherとReview Editor全員が参加し、主として、FODに関するコメントの対応を議論した。第8章のコメントの総数は、963であり、他の章と比べて少ないほうであった(おそらく、第1章についで2番目であったように思う)。
 会議は、自己紹介のあと、それぞれが順番にコメントの中で議論しなければならないものをあげて、議論をしていった。筆者は、初めての経験であったが、「気候モデルの結果の精度は十分でないというコメントが結構多くあったのに驚いた。前に、Coordinate LAであった、McVaneyが今回はReview Editorで来ていて、「前回も同じようなコメントがあった」といっていた。コメントの中で印象的であったのは、「政策決定に使用されるソフトウエアは、市場に出回っていて、ドキュメントも整理され、誰でも使えるものでなければならない」というコメントであった。これは、工学の分野では普通の考えのようであるが、最近の構造疑惑を考えると「むべなるかな」という感じもした。ただ、地球温暖化の問題では、このような市販の確定したソフトウエアがあるわけではないので、開発中のソフトを使って政策決定の参考にしても悪いわけはないというのが答えである。
 次に、大きな議論になったのは、台風などの異常気象の扱いである。前回は、「The Day After Tommorow」の影響で深層循環が止まるか否か、という話が中心であったが、今回は、ハリケーンカトリーヌの影響で台風が中心課題となった。「台風の増減などについてモデルの精度はあるか?」ということに対し、「確率は小さくても被害の大きい現象に対しては(精度の問題はあっても)積極的に発言すべき」という意見がでた。日本は、最近の地球シミュレータの成果などにより「台風に関してモデルは情報を提供できる」という立場で主張をした。
 また、コメントの中に、「モデルの現状が記載されているのは学生や他の分野の研究者の参考になるから良い」という意見と、「一般の人には煩瑣だから削除」という正反対の意見があり、どちらをとっても、反対側から非難が来るという難しい状況であることが痛感できた。そのほか、多かったのは「自分の論文が引用されていない」「この論文が引用されていない」というものであったが、現状でも、Referenceのページが膨大になり引用を減らすべく努力しているので、なかなかと難しい判断になることと思われる。公式的な答えは、「これは、ReviewではなくAssessmentである」ということである。
 もう一つの点は、地域的な気候変化に関して、領域型気候モデルを用いた結果は少なく、ほとんど、全球モデルの結果を使っているので、第8章で、地域的な側面も扱うこととなった。
 最後に、このようなIPCCの報告書に日本の成果を反映させようと思ったら、やはり、LAなどに日本人が参加することが不可欠であるという印象をもった。いいかえれば、日本人のLAを入れるということは、日本の仕事が世界から見えているということなのである。その意味でも、IPCCなどに日本の成果を反映させたければ、国際舞台の中で継続的に成果を出し続けていく必要があろう。同時に、「IPCCなどの国際交渉事は、壮大な手間と時間がかかっているのだな」という感じをもった。なぜか、19世紀のウイーンで「会議は踊る」といわれたのを思いだした。先の見えないときに、利害も思惑も異なる人々が交渉事をするのであるから仕方の無いことかもしれない。このような大きな世俗の流れに、世界中の多くの研究者が付き合っているということは、その動機はどうであれ(使命感か野心か)、感心するところであった。
第10章
報告:野田 彰(LA・気象庁気象研究所気候研究部部長)
鬼頭 昭雄(LA・気象庁気象研究所気候研究部第一研究室室長)
 1. 概要
 ニュージーランド国クライストチャーチ市のカンタベリー大学で開催された「IPCC第1作業部会第4次評価報告書第3回執筆者会合(IPCC Working Group I Fourth Assessment Report Third Lead Author Meeting)」(2005年12月13〜15日)に出席した。2004年9月26〜29日にイタリア国トリエステで開催された第1回会合、2005年5月10〜12日に中華人民共和国北京市で開催された第2回会合と同様に、IPCCの次期第4次評価報告書(AR4)の執筆に関わるCLA(Coordinating Lead Author)とLA (Lead Author)、共同議長のS. Solomon と D. Qin及び技術支援部門のほぼ全員が出席した。日本からは執筆者として、気象研究所から野田と鬼頭(共に10章)、東京大学気候システム研究センター(CCSR)から住(8章)、東北大学から花輪(5章)、及びレビューエディター(RE)として CCSRから中島(2章)、東京大学から小池(4章)、地球環境フロンティア研究センターから松野(10章)の計7人が参加した。国立極地研究所の藤井(4章)、内閣府の野尻(5章)は欠席した。会合では第1次ドラフトに対するレビューコメントへの対応と第2次ドラフト執筆作業の方針を議論したほか、各章にまたがる事項の調整についても議論した。

2. 報告
 第10章では、LAのうちGaye(セネガル)が欠席し、写真の13人が出席した。第1回会合後に辞任したAceituno(チリ)の代わりにKnutti(スイス)が新たなLAとなった。また2人のREのうちPant(インド)が参加した。
 今回の会合での主な議論内容は以下の通りである。

1)第1次ドラフトに対するレビューコメントへの対応
  • 第1次ドラフトに対しては、40ヶ国547人から17,200のコメントが寄せられた。多くのポジティブなコメント、より明確な記述をする上で役立つコメント、文献の追加やいくつかの記述の不完全な点の指摘がなされた
  • 第10章には1331のコメントが寄せられた。各LAが対応する分担はあらかじめ決めており、他LAとの協議の必要なコメントに対してのみ本会合で議論した。このため、当初のスケジュール外の12日夜間に第10章の会合を追加で行った。
2)第10章の第2次ドラフトへの対応策の協議
  • 本文で用いる図の再検討
  • Executive Summaryの再検討
  • 長期的な気候変化に関して10.5節から10.7節へ移動するなどの章内調整
3)各章間での重複・関連する事項についての調整
  • 「観測データ間の整合性」「炭素循環」「Extremes」に関して章間調整会合が持たれた
4)第2次ドラフト
  • 第2次ドラフトのCLAからTSUへの提出締切は3月3日
  • 第10章FODへのコメントに対する回答は1月13日までにCLAへ提出
  • 第10章SODは1月31日までに各LAの原稿をCLAへ提出、2月にLAへフィードバックし、章全体の改訂作業を行う予定
  • SODに対する政府及び専門家レビューは4月7日〜6月2日の8週間
  • SODへのコメントはTSUで取りまとめられ、6月16日までに各章CLAに配布される
5)第4回会合
  • 第4回会合は6月26〜28日にノルウェー国ベルゲン市で開催される
  • 章によっては今回同様、前日の25日に予備会合が持たれる見込み

3. その他
1)Solomon共同議長によるコメント
  • Executive Summaryはクリティカルである
  • 図もクリティカルであり、部外者にもわかりやすい図にすべき
  • 前回の繰り返しになるが、報告書は文献レビューではなく、一段階上のアセスメント(現時点での科学的な理解の程度)を示すこと
2)AR4のページ数
  • FODでは最終目標の1倍から1.4倍の分量になっている
3)SODにむけて
  • 第10章「全球的な気候予測」に緩和シナリオランを入れるかどうかの議論がなされたが、シナリオの引用文献がないこと、時間的余裕がないこと、からAR4では行わない
  • 特に第11章「地域的な気候予測」に関しては不十分との意見が多い
    4)会合で目についた日本からの貢献
  • 5章の紹介で海洋蓄熱量の全球平均時系列図に、Levitusに並んで石井(気候研究部から地球環境フロンティアに出向中)の成果が示されていた。
  • 11章の紹介で、温暖化に伴う梅雨の季節進行の変化の図(鬼頭・内山論文)が紹介された。
  • 温暖化に伴う「Extremes」の変化(特に熱帯低気圧)に関して、共生プロジェクトの20kmメッシュモデルの結果が注目されていた。
写真 IPCC第一作業部会AR4第3回LA会合第10章執筆者
左から: Watterson, Collins, Knutti, Gregory, Weaver, Meehl, Raper, Stocker, Noda, Friedlingstein, Zhao, Murphy, Kitoh
 

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